鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
武雄はそう言うとハナの腕を握りしめて無理やり歩き始めたのだ。


「なにするの!? 光鬼が死んじゃう!」

「鬼は不死身だろ、死んだりしない」

「だとしても、あんなの卑怯よ!」


武雄にずるずると引きずられて歩きながらハナは叫ぶ。
このままじゃ光鬼は殺されてしまう!


「こんなのどっちが鬼かわからないじゃない! 私を生贄にして、それでもダメだったら鬼を殺して取り返すの? 彼がなにをしたっていうの!?」


ハナの言うことは理解できる。
あの鬼が本当に噂通り怖い鬼なのかどうかもわからない。

だけど武雄は足を止めるわけにはいかなかった。
ずっとずっと好きだったハナとこの先もずっと一緒にいるために……。


「若い男」


その声にハナが息を飲むのがわかり、武雄は足を止めて振り向いた。
言葉を発したのは血を流した鬼だった。
右まぶたの上を切られたようで、閉じられている。


「ハナを頼む。俺の大切な人だ」
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