鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
生贄
その日はふたりにとって唐突に訪れた。
両親に先立たれたハナは1人4畳の板間に布団をしいて横になっていた。

朝はまだ開けきらぬ、狭霧村にとってはまだまだ真夜中と呼べる時間。
ゴトンッと重たい音が戸口の方から聞こえてきたことでハナは目を開けた。

薄い肌襦袢だけを着て横になっていたハナは半分寝ぼけながらも、着物を取り出して羽織った。
簡単に紐を結んだところでまたゴトンッと音がする。

そっと4畳の部屋から出たら、目の前には広い土間が広がっている。
普段はそこで煮炊きをしているが、今は火の気もなく寒々しい。

土間の向こう側には閂をかけただけの戸口があり、そこからゴトゴトと音が聞こえてくる。
こんな時間に誰だろう。

両親が生きていたときならば、父親が様子を見に出てくれていた。
けれどハナは今一人きりだ。

出て大丈夫だろうかという不安が一瞬脳裏をよぎる。
その不安はすぐに打ち消された。

これから先はずっと一人で生活をしていかないといけないのだ。
幼馴染の武雄はなにかと気にかけてくれているけれど、頼りっぱなしになることもできない。

自分で判断して、自分で行動していくしかないんだ。
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