鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
☆☆☆

それから数年が経過していた。
ハナと光鬼はひとつの山にとどまるのではなく、山から山へと経由する生活を続けていた。

そうすることで山に怖い鬼がいるという噂が立つこともなく、それにともなった生贄を準備されることもなかった。


「狭霧山は少しだけ削られたのね」


山を移動する際に経由した狭霧山は少し背が低くなっていた。
けれどそれほど大きく削られることはなく、光鬼とハナが3週間だけ過ごした洞窟もまだ残されていた。

その洞窟は『光花洞窟』と名付けられていて、村人たちから沢山のお供えものをもらっていた。
ハナは今でも村での生活を思い出すことがあったけれど、戻りたいとは思わなかった。

だって……。


「お母ちゃん!」


洞窟内で山菜を選り分けていたハナに小さな影が走り寄ってきた。
その子は腰に布を撒いただけの姿で、頭には2本の小さな角が生えている。

目はくりっとして大きく、ハナによく似ていた。


「花を積んできたよ!」


男の子は両手いっぱいに野花を抱えていて、それをハナに差し出した。
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