鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
早口にそう言って閂に手を伸ばす。
こんな時間に老年の田村爺が家を訪れることなんてめったにないことだ。

きっとなにか重大なことが起こったに違いない。
ハナは焦るあまり何度か鍵を開けそこなってしまったが、どうにか閂を開けることができた。


「田村爺、一体どうしたんですか?」


言いながら大きく戸口を開いたハナが見たのは複数の村人たちだった。
村人の中心には大きな樽が置かれている。
田村爺は戸口のすぐ脇に立っていたが、ハナから視線をそらすようにうつむいてしまった。


「これはどういうことですか?」


質問するが早いか、2人の筋肉質な男たちがハナの両脇にたち、腕を掴んだ。
その力は痛いほどで顔をしかめる。


「なにをするの!?」


必死に逃れようとしても男たちの力は緩まず、そして他の村人たちもハナを助けようとはしなかった。


「助けて田村爺!」


ずるずるとひきずられるようにして樽へ向かいながらハナは振り向いて叫んだ。
田村爺はハナが生まれたときに近くにいてくれた。
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