わがままだって言いたくなる
第25話
ホロリと泣く亜梨沙に駆け寄った晃。
ミンミンゼミとアブラゼミが鳴いている。
持っていた袋を置くとクタッと崩れた。
近づく晃に気づいた亜梨沙は
少し後退りした。
そこへ、見たことある男の子が
間に入って晃の顔を覗き込んだ。
「……お父さん、何してるの?」
「!?」
目を丸くして、言葉にならなかった。
目の前にいるのは、数年前に引き離された
榊原塁《さかきばらるい》実の息子だった。
別れてから、4年は経過していた。
当時はまだ年中で5歳だった塁は、
今ではだいぶ成長していて、
9歳になっていた。
遠くの遊具で、隆二と美咲、奏多と遊んでいたのは大きくなった榊原 瑠美だった。かなり大きくなっていて、少しずつ大人っぽい体つきになっていた。
「な、なんで、お前たち、
ここにいるんだ。」
トイレから戻ってきた果歩と比奈子も、2人の子どもたちと話をしていた晃にびっくりしていた。
比奈子は、前世の絵里香であるため、
自分の息子と娘をたくましく
大きくなった姿を見て、
感動を覚え、
その場に顔を伏せて泣き始めた。
果歩は、どうして泣いているか理解できず、
ヨシヨシと背中を撫でてあげることしか
できなかった。
「え、比奈子ちゃんって3人目なの?!」
あずさは思わず口にした。
「あー…それは。」
果歩は言いかけた。
「お父さんこそ、なんでここにいるの?!
また女の人に声かけようとしたでしょう。
亡くなったお母さん、
また怒ってるよ!!」
塁はプンプンと頬を膨らませて怒る。
瑠美は、淡々と答える。
「今日、おじいちゃん、おばあちゃんと
この公園に遊びに来たの。
2人は、あっちでパークゴルフしてるから
私たちはこっちで遊ぶことになってる。」
「…あー、そうなんだ。
あっちにおばあちゃんたちがいるんだね。
それにしても、2人とも
大きくなったなぁ。
元気にしてたか?」
「まぁ。……ねぇ、あっちにいるの
新しい人?」
塁は平然と答える。
「え。」
晃は言葉を詰まらせた。
スタスタと果歩と比奈子の近くまで
寄っていた。
「はじめまして!!
晃の息子の塁です。」
塁は丁寧に挨拶して、ぺこりとお辞儀した。
「え、あ。どうも。
はじめまして、小松果歩です。
こっちは、小松比奈子です。」
「……。」
泣いていた比奈子は、果歩の足元の服にしがみつき、恥ずかしそうに後ろに行った。
「可愛いですね。」
ジロジロと比奈子を覗く塁。
良く見るとどこかで見たことある顔だなぁと思った。
「へぇ、その子、母さんと同じところに
首にほくろあるね。
どことなく、母さんに似てなくも
ないかなぁ?
気のせいか。
子どもだもんな。」
塁はマジマジと見つめた。
比奈子はバレないようにと影に逃げた。
「塁!そろそろ、行くよ!」
「あ、うん。それじゃあ。
バイバイ!比奈子ちゃん。」
なんとなく話さなければならないと
感じた塁は、比奈子に向かって
手を振って別れた。
「お父さん、
次は逃げるなよ!」
塁はズバッと晃の心に矢が刺さるような言葉を浴びせた。
「あ、ああ!!努力する。」
瑠美と塁は、もう、
父親の晃に未練はないようで、
さっぱりと別れた。
本当は、自分自身が親として
育てなきゃいけないのにと
2人の後ろ姿を見て
罪悪感を感じた。
追いかけて、一緒に住もうと
言えたら苦労しないのに
裁判で決まったことは
絶対に変えられない。
連れ帰ったら、いくら父親でも
誘拐になり犯罪者あつかいになる。
右太もも脇で握り拳を作った。
久しぶりに瑠美と塁の顔を見られた前世の記憶がある比奈子は、ふーっとため息をついて
また頬に涙を伝っていた。
果歩は、何だか心落ち着かなくて、
ベンチに座っていた。
比奈子の横に、さっと隆二が近づいた。
両親に気づかれないように小声で
「あいつら、元気そうだな。」
「うん。
本当、大きくなってて安心したよ。」
「名残惜しいんじゃないの?」
「名残どころか…。
悔いてるよ。
もう、親として情けない…。
何もできなくて。」
隆二は肩をポンとたたいた。
「今の自分でがんばれ。」
「ま、そうなんですけどね。」
泣いた両目を必死でこすった。
隆二は、また遊具遊びに戻って、
走っていく。
比奈子は、果歩の横に座りにいく。
「ちょっと、果歩、今のどういうこと?
聞いてなかったんだけど。」
あずさは容赦なく、ぐいぐい聞いてくる。
果歩は致し方ないなと思いつつ、話し出す。
「実は、私、2番目の嫁なのよ。
前の奥さんは亡くなってるんだけど、
晃にはその時の子どもが2人いるの。
いろいろあって、今、あちらの祖父母が
子どもたち見ててくれてるのよ。」
「へぇ、そうなんだ。
果歩、あの子どもたちと一緒に住んでも
いいじゃないの?
何か事情あるの?」
「あ、まぁ……色々とね。」
比奈子は心中を察知したのか、
果歩の腕をしっかり掴んだ。
その間、晃と亜梨沙は片付けを
続けていた。
「お子さん、比奈子ちゃんの他にも
2人いらしたんですね。」
「あ、あれは、元嫁の子でして…。
実は、俺、バツイチなんですよ。
あまり大きい声ではいえない話
ですけど。」
「え、そうだったんですか。
さっき聞こえたんですが、奥さん
亡くなられたんですか?」
「あー、はい。」
「大変でしたね。」
何となく、聞いてはダメなんだろうなと思った亜梨沙は話を続けるのをやめた。
人生いろいろあるなと
自分の生活はまだマシなんじゃないかと
思い始めた亜梨沙だった。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね。」
果歩は比奈子を置いて、
1人トイレに駆け出した。
居た堪れなくなった。
過去の自分を思い出すことになるとは
思わなかったからだ。
ある意味、いわゆる略奪婚というような流れになったことをバレたくない。
芸能人ではない。
冷やかすことはしないと思うが、
奥さんが自殺して亡くなったことを
言えるわけがない。
でも、ボロが出そうで怖かった。
トイレの洗面台で顔を洗った。
尋常じゃないくらい汗が出ていた。
その間、ポツンと1人になった比奈子は、
晃のそばに駆け寄った。
「ん、どうした、比奈子。
今、片付けしてたから
もう少ししたら帰るぞ。」
「……さっき知らないお兄ちゃんに
声かけられた。」
何も言わないのも変だろうなと話を合わせて言ってみた。
「あー、さっきの男の子な。
比奈子のちょっとだけ
血のつながったお兄ちゃんだからな。
んー、あんまり会うことは
できないかもしれないけど
覚えててもいいかもな。」
腹違いの兄妹という流れになる。
もちろん瑠美も。
そう考えると別の角度で子どもたちとの接点が取れる。それも面白いなと思ってしまった。
「えー、比奈子のお兄ちゃんなんだ。」
ぼそっとつぶやいた。
晃は、比奈子が興味を示して
少し嬉しかった。
また、父として
子どもに会えるとは思っても見なかった。
果歩には辛い思いさせたかもしれないが、
ここに来てよかったと感じた。
ミンミンゼミとアブラゼミが鳴いている。
持っていた袋を置くとクタッと崩れた。
近づく晃に気づいた亜梨沙は
少し後退りした。
そこへ、見たことある男の子が
間に入って晃の顔を覗き込んだ。
「……お父さん、何してるの?」
「!?」
目を丸くして、言葉にならなかった。
目の前にいるのは、数年前に引き離された
榊原塁《さかきばらるい》実の息子だった。
別れてから、4年は経過していた。
当時はまだ年中で5歳だった塁は、
今ではだいぶ成長していて、
9歳になっていた。
遠くの遊具で、隆二と美咲、奏多と遊んでいたのは大きくなった榊原 瑠美だった。かなり大きくなっていて、少しずつ大人っぽい体つきになっていた。
「な、なんで、お前たち、
ここにいるんだ。」
トイレから戻ってきた果歩と比奈子も、2人の子どもたちと話をしていた晃にびっくりしていた。
比奈子は、前世の絵里香であるため、
自分の息子と娘をたくましく
大きくなった姿を見て、
感動を覚え、
その場に顔を伏せて泣き始めた。
果歩は、どうして泣いているか理解できず、
ヨシヨシと背中を撫でてあげることしか
できなかった。
「え、比奈子ちゃんって3人目なの?!」
あずさは思わず口にした。
「あー…それは。」
果歩は言いかけた。
「お父さんこそ、なんでここにいるの?!
また女の人に声かけようとしたでしょう。
亡くなったお母さん、
また怒ってるよ!!」
塁はプンプンと頬を膨らませて怒る。
瑠美は、淡々と答える。
「今日、おじいちゃん、おばあちゃんと
この公園に遊びに来たの。
2人は、あっちでパークゴルフしてるから
私たちはこっちで遊ぶことになってる。」
「…あー、そうなんだ。
あっちにおばあちゃんたちがいるんだね。
それにしても、2人とも
大きくなったなぁ。
元気にしてたか?」
「まぁ。……ねぇ、あっちにいるの
新しい人?」
塁は平然と答える。
「え。」
晃は言葉を詰まらせた。
スタスタと果歩と比奈子の近くまで
寄っていた。
「はじめまして!!
晃の息子の塁です。」
塁は丁寧に挨拶して、ぺこりとお辞儀した。
「え、あ。どうも。
はじめまして、小松果歩です。
こっちは、小松比奈子です。」
「……。」
泣いていた比奈子は、果歩の足元の服にしがみつき、恥ずかしそうに後ろに行った。
「可愛いですね。」
ジロジロと比奈子を覗く塁。
良く見るとどこかで見たことある顔だなぁと思った。
「へぇ、その子、母さんと同じところに
首にほくろあるね。
どことなく、母さんに似てなくも
ないかなぁ?
気のせいか。
子どもだもんな。」
塁はマジマジと見つめた。
比奈子はバレないようにと影に逃げた。
「塁!そろそろ、行くよ!」
「あ、うん。それじゃあ。
バイバイ!比奈子ちゃん。」
なんとなく話さなければならないと
感じた塁は、比奈子に向かって
手を振って別れた。
「お父さん、
次は逃げるなよ!」
塁はズバッと晃の心に矢が刺さるような言葉を浴びせた。
「あ、ああ!!努力する。」
瑠美と塁は、もう、
父親の晃に未練はないようで、
さっぱりと別れた。
本当は、自分自身が親として
育てなきゃいけないのにと
2人の後ろ姿を見て
罪悪感を感じた。
追いかけて、一緒に住もうと
言えたら苦労しないのに
裁判で決まったことは
絶対に変えられない。
連れ帰ったら、いくら父親でも
誘拐になり犯罪者あつかいになる。
右太もも脇で握り拳を作った。
久しぶりに瑠美と塁の顔を見られた前世の記憶がある比奈子は、ふーっとため息をついて
また頬に涙を伝っていた。
果歩は、何だか心落ち着かなくて、
ベンチに座っていた。
比奈子の横に、さっと隆二が近づいた。
両親に気づかれないように小声で
「あいつら、元気そうだな。」
「うん。
本当、大きくなってて安心したよ。」
「名残惜しいんじゃないの?」
「名残どころか…。
悔いてるよ。
もう、親として情けない…。
何もできなくて。」
隆二は肩をポンとたたいた。
「今の自分でがんばれ。」
「ま、そうなんですけどね。」
泣いた両目を必死でこすった。
隆二は、また遊具遊びに戻って、
走っていく。
比奈子は、果歩の横に座りにいく。
「ちょっと、果歩、今のどういうこと?
聞いてなかったんだけど。」
あずさは容赦なく、ぐいぐい聞いてくる。
果歩は致し方ないなと思いつつ、話し出す。
「実は、私、2番目の嫁なのよ。
前の奥さんは亡くなってるんだけど、
晃にはその時の子どもが2人いるの。
いろいろあって、今、あちらの祖父母が
子どもたち見ててくれてるのよ。」
「へぇ、そうなんだ。
果歩、あの子どもたちと一緒に住んでも
いいじゃないの?
何か事情あるの?」
「あ、まぁ……色々とね。」
比奈子は心中を察知したのか、
果歩の腕をしっかり掴んだ。
その間、晃と亜梨沙は片付けを
続けていた。
「お子さん、比奈子ちゃんの他にも
2人いらしたんですね。」
「あ、あれは、元嫁の子でして…。
実は、俺、バツイチなんですよ。
あまり大きい声ではいえない話
ですけど。」
「え、そうだったんですか。
さっき聞こえたんですが、奥さん
亡くなられたんですか?」
「あー、はい。」
「大変でしたね。」
何となく、聞いてはダメなんだろうなと思った亜梨沙は話を続けるのをやめた。
人生いろいろあるなと
自分の生活はまだマシなんじゃないかと
思い始めた亜梨沙だった。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね。」
果歩は比奈子を置いて、
1人トイレに駆け出した。
居た堪れなくなった。
過去の自分を思い出すことになるとは
思わなかったからだ。
ある意味、いわゆる略奪婚というような流れになったことをバレたくない。
芸能人ではない。
冷やかすことはしないと思うが、
奥さんが自殺して亡くなったことを
言えるわけがない。
でも、ボロが出そうで怖かった。
トイレの洗面台で顔を洗った。
尋常じゃないくらい汗が出ていた。
その間、ポツンと1人になった比奈子は、
晃のそばに駆け寄った。
「ん、どうした、比奈子。
今、片付けしてたから
もう少ししたら帰るぞ。」
「……さっき知らないお兄ちゃんに
声かけられた。」
何も言わないのも変だろうなと話を合わせて言ってみた。
「あー、さっきの男の子な。
比奈子のちょっとだけ
血のつながったお兄ちゃんだからな。
んー、あんまり会うことは
できないかもしれないけど
覚えててもいいかもな。」
腹違いの兄妹という流れになる。
もちろん瑠美も。
そう考えると別の角度で子どもたちとの接点が取れる。それも面白いなと思ってしまった。
「えー、比奈子のお兄ちゃんなんだ。」
ぼそっとつぶやいた。
晃は、比奈子が興味を示して
少し嬉しかった。
また、父として
子どもに会えるとは思っても見なかった。
果歩には辛い思いさせたかもしれないが、
ここに来てよかったと感じた。