Moonlight−月光−
…ああ、だめだ。




怖い。




身体が無意識に拒絶する。




もし、このドアの先に〝あの人〟がいたらどうしよう。


もし、玄関にあの革靴があったら。


もし、あの独特な柔軟剤の匂いがしたら。


もし、部屋の明かりがついていたら。




もし……もし……もしもっ!!





嫌な想像ばかりが頭を占領する。





怖い、怖い怖い怖い。





恐怖。




今わたしの心を埋め尽くしているものは間違いなく恐怖心。





そしてこの恐怖心こそがいつまでもわたしのすべてを制限するあの人という存在の、わたしを縛り付ける鎖のような枷であることが悔しくてたまらなかった。

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