Moonlight−月光−

わたしは戻ってきた酸味のある胃液を飲み込むと、震えを隠せない手でカードをかざした。


スキャナーはピッと短く反応すると自動でドアのロックを解除する。




ドアに手をかけた。



ひんやりとした金属が無性にわたしの不安を掻き立てる。




わたしはゆっくり、音をたてないようにドアを引く。




まず最初に視界に飛び込んできた玄関に〝あの人〟の革靴はない。


匂いもしないし、明かりも見えない。



ほっと胸を撫で下ろしたわたしは閉めたドアに寄っかかりながらずるずるとしゃがみ込む。



「ただい、ま…」



蚊の鳴くような小さな震えた声。



なんて、情けない。




こんな弱虫な自分大嫌いだ。


強くなりたい。



自分ヒトリでもあの人に歯向かって行けるくらい。


怯えず暮らしていけるくらい。





強くなりたい。





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