自殺教室
それから奈穂は万引を目撃したことを、他の誰にも言えていなかった。
毎日が忙しく過ぎ去っていき、豊の万引のことなんて忘れてしまいそうになったときのことだった。


「あ~あ、こんなに早く学校に行くなんてめんどくさいなぁ」

「仕方ないでしょう? 今日提出の宿題を学校に置き忘れた奈穂が悪いんだから」


朝早い時間に置き出した奈穂は怠慢な動きで朝食を食べていた。
実は昨日、寝る前に宿題をしようと思ったけれど学校に置き忘れてきてしまったことに気がついたのだ。

今から学校へ行っても門がしまっていて中に入ることはできない。
だから今日、朝早くに学校へ行って宿題をするはめになってしまったのだ。

普段ならもっとゆっくりできる朝が、今日は慌ただしかった。


「こんなに忙しい朝が嫌なら、忘れ物をしないことね」


奈穂のために一緒に早起きをして朝食を作ってくれた母親に「はぁい」と気だるい返事をして学校へ向かう。
いつもの通学路を歩いていても犬の散歩をしているおじいさんも、早足で奈穂を追い越していくサラリーマンもいない。
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