自殺教室
☆☆☆

その翌日から豊は千秋のことが気になって仕方がなかった。
万引しているところを目撃されたのだから、当然だった。


「千秋、昨日さぁ」

「千秋ってさぁ」


そんな声が教室で聞こえてくるたびにビクリと体を震わせて耳をそばだててしまう。
いつ千秋が万引についてクラスメートに話すかもしれないと思うと、気が気ではなかった。

だけど学校内で千秋が豊になにかを言ってくることはなかった。
廊下で偶然すれ違うときに視線がぶつかると、なにかいいたそうな表情になる。

けれどなにも言ってくることはなかった。
普段どおりの生活を送っている千秋を見ていると、豊はだんだん怖くなってきた。

千秋はいつか万引のことを誰かにバラすんじゃないか。
先生、友だち、両親。

もしかしたらもっと大変な人たちにバラされてしまうかもしれない。
そう考えると豊の中で自分の人生が破滅へ向かっていく様子がいとも簡単に想像できた。

そしてだんだん、千秋のことが恐ろしく見え初めてしまったんだ。
だから……。


「千秋は成績がいいけど、カンニングしてるらしい。もうずっと前から」
< 75 / 165 >

この作品をシェア

pagetop