晩夏〜君の声も全部、忘れたくないよ〜
 つまりは、”お祭りに行く”なんてのは口実にすぎないのだ。

夏の暑い日は、クーラーの効いている部屋で過ごす方が何倍も快適だ。
どこか商業施設に行ってもいいし、
それこそ太陽の高い日中に、海かプールへ行けばいい。

なにも人混みへやってくる必要なんて、どこにもない。
でも人は集まる。
駅の電灯に溢れる虫の様に。一箇所に。

きっとそれは、他者との繋がりを求めるからなのだろう。
人として。誰かとの繋がりを。
見えないけれど。

そして僕はここへ一人で来ている。
500円で手に入れたりんご飴を片手に持ち、人混みに紛れる。
浴衣の群れをぼんやりと眺めながら、なんとなく同じ方向へ歩く。

透明な水飴に絡まれた赤い果実は、水々しくてとても美味しい。
ガリリと噛んだ。
咀嚼して飲み込む。

なるほど。
パリパリと音を立てたこの甘酸っぱい果肉には、
その値段と相応の価値くらいはあるかもしれない。

誰も僕が一人で来ていることに、気がついてなんかいない。
大きな口を開けて、歩き食いをしてもなんら問題はないはずだ。

「僕もサクラとくれば良かったな」
そう。僕にはサクラという友人がいた。
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