放課後はキミと。



その時。
目の前にだれかが立ちふさがった。

ふわりと香る、柑橘系の匂い。
そっと目の前を見ると、こないだの彼女――佳耶さんだった。

丸い瞳に、ぱっちりとした二重。
色白で、きれいな肌。
ふわふわな栗色の髪。
今日は赤いダッフルコートではなく、青のパステルカラーのPコートを着ていて、それもモデルのように似合っていた。

「今日も補習ですか?」
艶やかに微笑む彼女は、表情とは裏腹にとても冷たい声だった。

涼村くんに向けられていた甘ったるさとか猫なで声なんてみじんもない。

「え、はい……涼村くんなら反対方向ですけど……」
一応彼が歩いて行った方向を指さす。

……なんとなく、わかってたけど。
今日、この子はあたしに用があったんだろうなって。

「いいえ。今日は貴方に、用があったので」
にんまりと挑発的に弧を描く唇。
「……なんでしょうか」
そういった争いごとに慣れないあたしはびくびくと肩を震わせてしまう。
「駆け引き、めんどくさいから正直にいうわ。あんた、深月のなに?」
突然のドスが効いた低い声に、本当に目の前のこの人がそれをいってるのか疑うほどだった。
でも周りには彼女しかいない。
「聞いてんのか」
さらに言い募られ、やはりこれは目の前の彼女がいっていると確信する。

……え、と。
佳耶さん、ヤンキーとかなのかな……。

「クラス、メイトですけど……」
おそるおそる返すと、ふうん。と冷たく言って、髪をかきあげる。
「でもさっきそこ通ったやつらがあんたらのこと付き合ってるっていってたけど」
「色々事情があって表面上だけ付き合ってることにしてもらってて……」
「はあ? なんで?」
「……涼村くんはあたしのことかばってくれてて」
「なに? あんたいじめられてるわけ? それでつけこんでるってこと?」

……つけこむ。
何気ないその棘がチクチク胸に刺さる。

「あんた、深月のこと好きよな?」
思わず佳耶さんに目を向けると、どうやら肯定と受け取ったらしかった。
チッと舌打ちされる。

……あの、ほんとにこの子はあのきゃぴきゃぴうふふの佳耶さんなんでしょうか。

目の前の光景に唖然としっぱなしだ。

「だからってそんな卑怯な手使いやがって。深月がなんもいわんからって調子のんなよ」

完全なヤンキー口調で佳耶さんは栗色のふわふわ髪をかきあげる。

調子にのってるつもりはないけど。
甘えていることは、否定できない。

「ま、いいけど。あんた、自分のその顔で深月と付き合えると思ってんの?」
腰に手をあてて、上から下まで品定めされた。
「どうみても、深月の隣はあんたよりうちのほうが似合ってるよな?」
右手を自分の胸に当てて、自信満々な姿はもちろん可愛い。
外見だけであれば佳耶さんの圧勝だ。
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