放課後はキミと。
佳耶さんは不意にあたしの顎に手を添えて、くいっと顔をあげた。
大きな丸い瞳とかちあって、数秒間見つめあう。
その丸い瞳に自分の顔が映っているのをみると、なぜだかあたしは照れてしまった。
だってこんな美人に見つめられること、ないんだもの。
「てれんな」
「ごめんなさい」
「見惚れるのは理解できるけどな。ひとつ、教えてあげる。あんたなんかより、何百倍もうちは深月のこと好きやし、あんたなんかより何百倍も深月の隣が似合ってる」
瞳の奥に見える、強い意志。
好きという気持ち。
……世間一般的にそうだよね。
少なくとも、あたしより何百倍も隣が似合うと思う。
彼女のキャラと展開に圧倒されながらも、あたしの頭はどこか冷静だった。
そんなあたしを完全に見下した様子で、佳耶さんはあたしの顎から手を離した。
「でも深月もあんたのこと"クラスメイト"っていってたしな。あんたはそうは思ってなかったみたいだから、牽制に来たのは正解だったわ」
たしかにあのとき、あたしはクラスメイトと紹介された。
それはしょうがないと思う。
あたしたちは友人でもなければ恋人もない。
ただの恋人のフリをしてもらってる、微妙な関係のクラスメイト。
そんなことはわかっているのに、どうして心が乱れるの。
「いい? 深月の恋人にはうちが今のとこ最有力候補なの。邪魔するんやったら、全力で潰しにかかるよ」
そうやって含み笑いする姿すら、ドラマのワンシーンかと思うくらい、きれいだった。
「……ヤンキーのお友達とかに、ですか?」
全力で潰すってなにするんだろという好奇心がおさえられなくておずおずと聞いてみると、佳耶さんの目がすわって「はあ?」とすごまれる。
美人がすごむとこわっ。
「うちはもうヤンキーから卒業してるわあほ! 全力で潰しにかかるっていうのは、言葉のアヤなわけ。察しろよ」
元ヤンだったのか。
しかもただの脅し文句だったっぽいな…。
あたしの目に佳耶さんも失言に気づいたらしい。
コホンと咳払いして、とにかく。と続ける。
「貴方は指くわえて、私と深月が付き合うの、見ときなさい」
さっきまでの鬼の形相とは違い、昨日涼村くんに見せていた愛想のいい笑顔になっていた。
「二重人格……」
ぼそりとつぶやくと、
「失礼ね! 世渡り上手っていってほしいわ」
そう涼村くんと同じ言葉をいった。
「今日はそれを言いに来ただけよ。バイバイ、クラスメイトさん」
言いたいことをいってすっきりしたのか、佳耶さんはひらひらと手を振って、踵を返した。