放課後はキミと。
「――待ってください」
その背を、思わず呼び止めてしまう。
振り返った佳耶さんの瞳は、少し楽しそうに見えた。
呼び止めてみたものの、なにをいうかは定まっていなかった。
ただ、このままではだめだ、と思って引きとめてしまった。
「なにか?」
柔らかく、ころころと笑う。
「あ、あの、あたしも、涼村くんが好きです」
思わず滑り落ちてしまった気持ち。
「知ってるけど」
「涼村くんを想う気持ちは負けてないって、思います」
佳耶さんはそんなあたしの様子に目をシロクロさせた。
「付き合うとか、まだそんなことぜんぜん考えられないですけど、でも」
……この気持ちだけは。
「彼のそばに、いたいから頑張りたいんです」
だれにも負けないって思うから。
佳耶さんはふ、と息を漏らして、あたしを見据えた。
「釣り合うとか、思ってるわけ?」
途端に戻ってくるヤンキーモード。
「可愛くなりたいと、思っています。でも彼は、外見だけで判断するような人じゃないし、涼村くんに好きになってくれるように努力したいと思ってます」
「ふうん?」
佳耶さんは眉をあげて、くっくっと喉を鳴らして笑った。
「それ、宣戦布告?」
「え、そんなたいそうなもんじゃ……」
「いいね、おもろい。じゃあ、勝負ね」
……ヤンキー体質だ、佳耶さん。
タイマンとか、大好きなタイプの。
「うちかあんた、どっちが深月落とせるか。楽しみだね」
佳耶さんは余裕の笑顔を残して、そのまま、立ち去っていった。
「はあ……」
思わずそのままその場にへたりこみそうになった。
緊張した…。
すんごい緊張した。
喧嘩なんてふっかけたつもりなかったけど、なんか宣戦布告したことになったし。
……佳耶さん、やっぱり涼村くんのこと、好きなんだなあ。
あそこまで使い分けてるとは、恐るべし恋心。
涼村くんは、どう思ってるのかな、佳耶さんのこと。
普通に考えて、あの猫かぶってる時の佳耶さんしか知らなきゃそっちのがいいよね。
顔もスタイルも何もかも負けてるし。
――だめだ、卑屈になっちゃ。
大事なのはあたしがどうしたいか、でしょ。
勝つとか負けるとか、そんな勝負だとは思わないけど。
涼村くんに好きになってもらえる女の子になれるように頑張るんだ。
「帰ろ」
一人でぼそりとつぶやいて、あたしは家の方向に足を向けた。
古典と英語の復習しなきゃ、なんてここ一ヶ月でついてしまった習慣に、小さく笑った。