放課後はキミと。

そして妹様に渡された服は、中三にしてすでに大人びていた。

花柄のスカート、レースがついてるハイウエストの長袖シャツとカーディガン。
ついでにブラウンのダッフルコートも貸してくれた。

おまけに。

「化粧もしようか?」
なんてませたことをいうもんだから、丁重にお断りしといた。

だってまるで気合入ってるみたいだもん!!
あくまで勉強会なんですよ!!

「……じゃあ、いってきます」
「がんばってねーデート」
「デートじゃないっ」
ひらひら手をふってにこにこ笑う藍に噛み付くようにいってから、玄関のドアを開けた。


どきん どきん

心臓の鼓動が、鳴り止まない。

待ち合わせ場所に向かう足取りはふわふわしてるみたいに軽い。
結構冷たい風がふいてるのに、全然あたしの熱を下げてはくれない。


待ち合わせには、10分前に着いた。
ちょこっと鏡を取り出して、変なとこはないか確認。

まあ、今更なんですけども。
あんまりこういった服装を着ることに慣れてないもんだから、照れくさい。そのうえに視線を感じる。気がする。うん、自意識過剰ですよね。

涼村くんまだかな。

そわそわしながら、辺りを見渡す。


「ねえ、あの人かっこよくない?」
「ほんとだー。顔整いすぎー」
女の子たちが頬を染めて、きゃっきゃっいってる声。
そして声の主の視線の先を見る。

そこには案の定。
駅前の噴水の淵に腰掛ける、涼村くんの姿が。


……涼村くんだ。

無駄に跳ね上がる心臓をおさえつける。

学校でも着てるダッフルコートに青のマフラー、コートの下からは黒のジーンズ。
あの人も、何を着てもきっとモデルみたいになるんだろうな、と思う。

天賦の才能とは、恐るべきものだ。


ぼーと見つめていると、涼村くんがこっちを見て、ばっちり目があった。
思わずびくんと肩が揺れる。

見てたのばれてたらどうしよう……!

そんなことを考えていると、涼村くんがこっちに歩いてきた。


どくん 
どくん

近づいてくる、彼が。
あたし、変じゃないよね!?


「なにしてんの、あんた。気づいたなら、声くらいかけてよ」
涼村くんはあたしの服装には当然触れるはずもなく、ため息をつきながら文句をいってくる。

ええい。心臓うるさいってば!!

「なんだー。彼女持ちなんだー」
「まああれだけ整ってたら彼女くらいいるよねー」
さっきの女の子たちが残念そうな声を上げていた。


……彼女に、見えるんだ。
うれしくないっていったら嘘だ。

ああ、もうどうしよう。


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