放課後はキミと。
「どうかした?」
気づいたときには涼村くんがあたしの顔を覗き込んでいた。
突然の至近距離に驚いて、ひゃあ!なんて間抜けな声をだしてしまう。
心臓の早鐘に、あたし今日大丈夫かなという一抹の不安。
「ご、ごめん! ちょっと考え事してて……!」
あわあわしながら告げると、涼村くんは特に気にした様子もなく、ふうん、とだけいった。
「とりあえず、マックでいい? 勉強場所」
「う、うん……!!」
慌てて頷いて、歩き出した彼の半歩後ろにくっつくようについた。
ちら。と盗み見。
私服って思うだけで新鮮。
あ、ちょっと寝癖がついてる。可愛い。
それなのにかっこいいなんて反則。
⋯て、乙女かあたし。
自分の恋する乙女っぷりに撃沈しそうになる。
苦手だとかいってた過去の自分にこの有様を見せたらせせら笑われそうだ。
「……宿題やった?」
「は、はいもちろん!」
敬礼しそうな勢いのあたしに、涼村くんはクックッと笑う。
「なんか、犬みたいだな」
「そうみえたなら涼村くんがしつけたんだね」
「俺、そんなにしつけたっけ?」
「あんなにスパルタにいじめられたら、だれもがこうなります」
「あれはあんたが悪いだろ」
こんな他愛もない会話が、愛しい。
そして、楽しい。
重症だ、あたし。
あっという間にマックについたけれど、テスト前ということもあるのか席は結構埋まってた。
あちこちで勉強道具が広げられている。
考えることはみな同じ、か。
視線は主にスマホみたいだけど。
仕方なくあたしたちは、注文した品をもって並んでカウンターにトレーを置いた。
あ、中はセーターなんだ。
座る前にコートを脱いだ涼村くんは、下にノルディック柄のグレーのセーターを着ていた。
少し涼村くんの好みがわかって嬉しかった。
椅子に腰掛けようとした瞬間、一瞬肩が触れ合う。
「あ、ごめん」
「う、ううん……!」
触れたのは肩なのに、心臓が痛いほど鳴っている。
しかも座ると、教室の時よりさらに距離が近い。
肘を少しスライドさせれば触れてしまうような、そんな距離。
これは、完全に間違えてしまったかもしれない。
そんなあたしなんて構いもせず、彼は涼しい顔をしてポテトをつまんでいた。
……彼にはどきどきする要因なんてひとつもないのだろうけれど。
それはそれで悲しい。
とりあえず邪念は一旦捨てて、空腹を満たそうとハンバーガーをかじった。