放課後はキミと。

無言の時間が続いて、あたしは話題をふることにした。

「涼村くんって、一人っ子?」
「ううん。兄ちゃんいるよ」
「似てるの?」
「俺はあんま思わないけど、似てるとはいわれるね」

それだったらきっとイケメンなんだろうなあ。
少し大人になった涼村くんなのかなと思うと少し会いたくなる。

「じゃあもてもてなんだろうね」
「兄ちゃんはすごいよ。あれは天才肌だから。なんでもできる」

涼村くんもなんでもできますが。
……ああ、でも後天的なものなのか。努力、したんだもんね。
お兄さんとも比べられたり、したのかなあ。

「コミュニケーション能力も高いからさ、友達も多いんだ。女の子はとっかえひっかえだけど」

とっかえひっかえ……。
ちょっと見たい気持ちになっていたが、とっかけひっかえの時点でたぶんチャラいのだろうと思うと途端に苦手意識を覚えてしまう。

「あんたは妹だっけ?」
「うん。よく覚えてたね」
「なんか下っぽいのにな」
「どういう意味それ」
「そのまんまの意味」
ぷうと頬を膨らますと、くすくす涼村くんが笑った。

失礼な人だ。

「ほら、すねてないで勉強しろ」
「すねてません」
顔を背けて席を立つ。
ゴミを捨てに行くためだ。

飲み物だけどけて、涼村くんの分も一緒にまとめてゴミ箱に捨てに行った。

席に戻ると涼村くんは勉強道具を既に広げていて、サンキュと優しい笑顔で言った。

きゅん
笑顔ひとつで機嫌が治ってしまうあたしも単純だ。

「んじゃ、これ最後の英語の問題」
目の前に置かれたのはいつもの涼村くんお手製のテストで。
「任せて」
自信満々にそういって、あたしはペンを握るのであった。

そして三十分後。

「52点か。まあまあだな」
「80点には届かなさげだー」
返ってきた答案用紙を眺めながら、つぶやく。

50点台が普通になってきてるだけでもあたし的には大進歩なんだけどね。
でも担任のギャフンという顔がみたいじゃないですか。

「最初の絶望的な感じよりかはだいぶ進歩だろ」
「そうだけどね」
「俺は三人称単数を知らないといわれたときは、終わったと思ったわ」
「……今はわかるもん」
「今わかんなかったら蹴るわ」

当時はすみません。

「ま、でもこれもあんたの努力の賜物だし、自信はれ」
ぽんと背中をたたいて、耳元で囁かれるような、そんな間隔の距離。
一瞬で体温は急上昇。耳が真っ赤になるのを感じた。


涼村くんの距離、心臓に悪いっ。

こういうのなんていうの?
アメとムチ?


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