放課後はキミと。
「……お、そろそろ帰るか。六時だし」
「あ、ほんとだ」
スマホを見れば時刻はすでに18時。
なんて、あっという間の時間なんだろう。
勉強時間があっという間なんて、信じられない。
さっさと片付けを始める涼村くんは名残惜しそうな欠片ひとつない。
……脈なしなんてわかってますよっ。
それでも期待してしまうのだけは止められないのです。
片付けなんてほんとすぐおわって、そのまま並んで店を出る。
「あんたん家、こっからのが近い?」
「う、うん。あたしの家、あっちだから」
あ、しまった。
うそでも駅まで戻ったほうが近いっていえばよかった。
そしたらもう少しだけでも、一緒にいられたのに。
「どのくらい?」
「歩いて20分くらい、かな」
「そか。んじゃ、行くか」
「…………え?」
「え?」
歩き出そうとした涼村くんに驚いて思わず声が出る。
涼村くんも怪訝そうな顔をして、首を傾げた。
「どうしたの?」
「涼村くん家、全然方向違うよね?」
「家まで送るつもりだったけど。嫌?」
まさかの展開にびっくりして声も出なかったけど、ぶんぶん首を振った。
「ん、じゃいくか」
涼村くんはそんなあたしをみて、楽しそうに微笑んだ。
暗い道を二人で歩いて、他愛もない会話をして。
流れるように時間が過ぎて、気付けば家の近くまで来ていた。
そこでハッと気づく。
待って。浮かれてたけど、このままでは、家を見られてしまうということだよね。
お世辞にもきれいとはいえないアパートに住んでいるので、あのアパートを見られると思うと気が引けてしまう。
「す、すずむらくん、ここでいいよ!」
次の角を曲がれば家がみえる、というところで、あたしは思わずそういってしまう。
「え、家の前まで送るよ?」
「大丈夫! ここ曲がったらすぐだし!」
「……そっか。んじゃ、ここで」
あっさり引き下がってくれる涼村くんにほっとする。
「うん。ほんとにありがと」
「それじゃ、気を抜くなよ」
最後まで先生の涼村くんに、小さく笑ってうなずいた。
「じゃな」
あっさりと手を振って、元の道に帰っていく。
その背中を見つめていると、突然涼村くんは振り返った。
再度バイバイと手をふるあたしに、涼村くんは不敵に笑った。
「がんばれよ、卯月」
そういうと、背を向けて去っていく。
「~~~~~~」
その後姿が見えなくなってから、しゃがみこんだ。
何今の、反則。
名前、覚えてたんじゃない。
ずっとあんた、だったくせに。
頬を両手で包んで、言葉が頭の中で何度もリプレイされる。
がんばれよ、卯月
……いかん、顔がにやける。
ただの苗字なのに。
こんなにうれしいなんて、想定外だよ。
もし名前なんて呼ばれたら、どうしよう。
……悶え死ぬ。
想像しただけでどうにかなっちゃいそう。