放課後はキミと。

自分の家に向かって改めて住んでいる場所を見る。
最近外壁は塗りなおされたからきれいなクリーム色をしているけれど、経年劣化を感じさせる日々が所々あるし、ドアは郵便受けと覗き穴がついている団地によくありそうなものだ。
ずっと住んでるから何とも思わないけど、戸建てに住んでる友達の家に遊びに行くといいなあとは思ってしまう。
涼村くんがどんなところに住んでいるかはわからないけど、きっとここよりはきれいな所に住んでるんだろうな、と思う。

家のドアをあけると、にやにやしている藍がいた。
「お帰り。お姉ちゃん」
「……どしたの」
「ねえ、あの人彼氏!?」
「なんで」
家の手前の曲がり角でバイバイしたのに、なぜ知ってるのか。
「さっき帰ってきたときにお姉ちゃんと男の人歩いてるのみえたからさー!わざわざ違う道から帰ったんだからね」
いつみられてたのかわからないが、藍は興奮さめやらぬ様子でずいずい近寄ってくる。
「めっっっっっちゃイケメンじゃん! お姉ちゃんにはもったいないね!」
無邪気な顔して、なんて酷なことをいうんだこの妹は。
「彼氏じゃないよ」
藍はその言葉に一瞬真顔になって、そうだよね。とつぶやく。
「片思い中? それは高望みしすぎだよ」

うっ。ずばずば痛いとこをさしてくるのをやめてほしい。

「せいぜい遊ばれないように気をつけなよ?」
「余計なお世話!」
うるさい藍を一喝して、あたしは妹の横を通り過ぎて部屋へ直行した。
共同部屋なので、あまり意味はないのだけど。
とりあえずドアは閉めておいた。


"卯月"

一人になった瞬間に頭にリプレイされるあの声が、あの顔が。
どうして録音してなかったんだろう。
もう二度と聞けないかもしれないのに。


ぼーとしたまま、バッグから勉強道具を取り出そうと開ける。

……ん?

目に飛び込んでくる教科書の背表紙が二つ同じものがある。

あれ何で英語の教科書が二つも……。
あっ!し、しまった!!

ぶちあたった答えにさっきまで火照った顔は急激に青くなった。

これ涼村くんのだ!!
間違ってもって帰ってきたらしい。
明日英語のテストなのに。
なんで教科書もって帰ってんだあたしは!
ばかじゃないの!

え? まだ間に合う?

別れてからすでに五分は経過している。

あ、そうだ。スマホ!
思いついてスマホを開けて、はたと気づく。

「……連絡先、知らない」
必要性を感じなかったために、聞いてなかった。
わからないことは次の補習で聞くようにしてたし。

連絡先を知っている人を探すことを考えても時間がかかるし、追いかけたほうが早いかも。

「あれ、またでてくのー?」
英語の教科書だけをもってドアに向かうあたしに、藍のそんな声が後ろから聞こえたけど、あたしはちょっとね!とおざなりに返事して、マフラーとアウターを羽織って家を飛び出した。

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