ある夏の日、あなたに恋をした
 出会いはいつだって偶然だ。だけど、それを偶然と捉えるか必然と捉えるかどうかは自分自身の判断だと思う。

 俺はあなたとの出会いを偶然だなんて言葉で片付けたくない。

 必然だったって。そう思いたいから。

 あなたの幸せを、いつまでも、どこまでも願うよ。この海に誓って。



 俺の朝ははやい。というか、サーファーの朝ははやい。四時三十分にセットしたアラームを止めて目を開け、母さんが用意してくれている朝ご飯を食べ、歯磨きをしたら自転車に乗り、海へ向う。俺のサーフボードやウェットスーツを全部預かってくれている達雄さんの店へ入ると、「おう、渚(なぎさ)おはよう」と声を掛けてくれる。

「達雄(たつお)さん、おはよ」

 達雄さんはこの街でサーフショップを経営しているかっこいいおじさん、もといお兄さんで、俺のサーフィンの先生でもある。数年前唐突にこの街にやってきた達雄さんは、俺にサーフィンの魅力や波の乗り方を一から教えてくれたのだ。

「今日は風もないし絶好のサーフィン日和だな」そう白い歯を見せて笑いかけてくれる達雄さんに向って「そうだね」とだけ返して早速ウェットスーツへと着替える。

 学校の夏期講習が始まるまでの数時間、一秒だって惜しい。なんで夏休みだってのに学校に行かなくちゃいけないんだか。まあ、その答えは明確で単純。受験生だからなんだけど。大学に入ったら達雄さんの店でアルバイトをさせてもらう約束もしているし、受験勉強も頑張らないと。だけど、サーフィンの魅力にとりつかれた俺はまずは今日の波に集中する。なんてことを考えながら着替え終えた俺は、達雄さんからの「気、つけてな」という声を背中に聞きながら、「いってきます」と海へと向って走り出した。

 海のそばの街で育った俺にとって、海は産まれた時から身近にあるもので、こんなに夢中になれる対象ではなかった。だけど、今となっては海とサーフィンのない世界は考えられない。それくらいに俺は海の魅力に気づいてしまった。
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