ソネットフレージュに魅せられて

第31話

後ろを気にせずにペデストリアンデッキを
歩いて行く。

目的地の雑貨屋デパートの入口に着いてもなお、
後ろを向かずにさっさと、
エスカレーターを登っていく。

声をかけてとめようとするが、
雪菜はあきらめて、
そのまま一人歩いて行く。

ハッと後ろを振り向いた凛汰郎は、
雪菜がいないことに気づく。
まったく知らない女性が下の段の
エスカレーターに乗っていた。
小さなため息をついて、3階の踊り場で
待っていた。

雪菜は、下を向いたまま、
3階におりる。
声をかけるのも恥ずかしさがあった。

「……悪かった。」

顔を横にして、雪菜はふくれっ面になっていた。

「迷子になったら困るから、
 こうしておこう。」

 凛汰郎は、雪菜の右手を自分の左手で
 つかんで、さらに上の5階フロアに
 向かった。
 この瞬間が初めて手をつなぐのが
 初めてだった。

 無意識に手をつないでる。
 凛汰郎は雪菜を子どもかのように
 保護者目線で対応をしていた。
 
 雪菜はそんなふうに思われているなんて
 思いもしていない。

 でも、目的地って一体どこだったのか。

  頭が働かなくなっていた。

  つないだ手が想像よりも
  骨骨していて、
  細い指ひとつひとつが
  暖かいことになんだか、
  胸がどきどきと気持ちもホクホクしていた。
  手汗がかいてないかも気になる。

 「あのさ、ここでいい?
  ついでに見ていきたいんだけど。」

 凛汰郎は、音楽フロアコーナーを指さした。
 せっかく手をつないでいたのが急に離れて
 寂しくなった。

「……あ、えっと、うん。
 あれ、そういや、なんでここに来たんだっけ。」

「これ。」

凛汰郎は、自分の耳を指さして、アピールする。

「あ!! ワイヤレスイヤホンだよね。
 その節は、本当にごめんなさい。」

 何度も謝る雪菜は、申し訳なさそうに
 顔を上げてとジェスチャーする。

「選ぶから、見てよ。」

「うん。わかった。」

 2人は、縦並びに店の中に入って行った。
 イヤホンコーナーでは、ワイヤレスイヤホンと
 コード付きイヤホンといろんな種類のものが
 あった。

「これいいかもなぁ…。」

 商品を手に取り、雪菜に見せる。

「え?!! それはちょっと…。
 いくら弁償するって言っても
 高すぎるよ…。」

 凛汰郎は反応を見たかったようで、
 わざとお高いワイヤレスイヤホンを出して見せた。
 金額は10950円と書かれている。

「嘘に決まってるだろ。」

「え……。」

 舌をペロッと出す。

「これで勘弁してやる。」

 高いイヤホンの隣にあった3000円相当の
 ワイヤレスイヤホンをぽいっと雪菜の両手に
 渡した。

 ほっと一安心した半面、
 凛汰郎にこんな茶目っ気あったかなと
 信じられなかった。

 いつも部活では終始真面目な様子で、
 違ったいじわるのされ方していたのに、
 前と違う性格にどぎまぎしていた。

「ちなみにこれより安い商品は、
 コードつきイヤホンだよね。」

「一番安くてその金額が相場だよ。
 俺が前買ったワイヤレスイヤホンは
 それくらいの値段。」

「そうなんだね。
 私が壊してしまったんだから、
 仕方ない。
 しっかりと弁償させていだたきます。」

「ああ。」

 腕を組んでうなずいた。
 雪菜は凛汰郎から渡された商品をレジカウンターに
 持って行った。

 本当は壊したものを買ってもらうつもりなんて
 さらさらなかった。
 会う口実ができていたため、本来の思いと
 違う行動をしていた。
 私服姿で雪菜に会うことは今までなかったため、
 興味本位もある。

 申し訳ない気持ちを解消するために
 凛汰郎は何かを企んでいた。

「こちらをお受け取りください。」

「あ、どうも。」

 無事、雪菜が買ったイヤホンは、凛汰郎の手に渡った。

「これで任務完了だね。
 よかった。」

 雪菜は胸をなでおろした。

「これで許したとは言ってないけどな。」

「え?どういうこと。」

 目を丸くする雪菜。

「ちょっと、来てほしいんだけど。」

 また迷子になると心配した凛汰郎は
 自然に手をつないでいた。
 拒否する理由も見つからない雪菜は言う通りに
 着いて行った。








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