ソネットフレージュに魅せられて
第43話
カザミドリがぐるぐるとまわる屋上で
緋奈子と雅俊は手すりに手をかけて
外を眺めた。
「嘘、なんでしょう?」
髪をかきあげる緋奈子。
雅俊は、じっと目を外に向けたままだった。
「……。」
両手を伸ばして組んでいた腕を
頭の後ろに置いた。
「半分嘘で、半分本当っす。」
「知ってるよ。
本当は、雪菜にカマかけたかった
でしょう。」
「近くにいて、ほとんどのことを
あいつのこと知ってても、
恋人にはなれないって
悲しいですよね。
幼馴染にならなきゃよかった。」
天を仰いで、ため息をつく。
「うらやましいなぁ。
逆を言えば、どんな状況でも
ずっと近いところにいるじゃない。
恋人という境界はこえられなくとも
近い存在には変わりない。
近すぎてダメになるよりちょうどいい。」
緋奈子は、雅俊の肩に手を置いた。
「雪菜の代わりにはなれないけど、
力にはなるよ?」
肩に顔をうずめた。
頭をなでなでされた。
撫でた手をつかんだ。
「俺、歯止めきかないっすよ?」
目と目が見つめ合った。
「いいよ。それで気が済むなら。」
雅俊は、緋奈子の後頭部をおさえて、
唇を重ね合わせた。
叶わない恋など追いかける必要はない。
受け止めてくれる誰かがいるのなら
それでいいと思い始めていた。
東の空で飛行機雲が少しずつでき始めている。
◇◇◇
数日後、とある休み時間、移動教室で
これから化学室に行こうと教室の机から
教科書とノート、筆箱を出して、
廊下に足を進めた。
「ほら、雪菜、化学室行くよ。」
緋奈子が、手招きする。
今日の緋奈子は、アップのおだんごで
うなじが綺麗に見えていた。
化粧がいつもよりツヤツヤしていた。
「あれ、緋奈子。今日、肌艶がいいね。
ツルツルしてる気がする。
うらやま~。」
つんつんと指で頬を触った。
そういわれて、少し頬を赤らめる。
「え、そうかなぁ?」
「化粧品変えた?
ファンデとか?」
「うーんと…別に変わりないけど。」
「ふーん。そうなんだ。」
「あ、そういやぁ、
最近の話と言えば、
先輩とより戻したかな。」
緋奈子は、大嘘をついた。
本当のことを言うと、
雪菜が傷つくのではないかと
思って言えなかった。
「え、嘘。あんなに相手の彼氏のこと
嫌がっていたのに?」
「……まぁ、いろいろあんのよ。
それより、そっちはどうなの?
凛汰郎くんとはどこまで?」
「……。」
急に自分のこととなるとものすごく
恥ずかしくなる雪菜は顔を真っ赤にして
人差し指をつんつんと動かした。
「なんだ、進展なしか…。」
「そ、そんなことないよ。
ここでは言えないだけだから。」
近くを凛汰郎が通り過ぎる。
噂をすればなんとやら。
緋奈子は通り過ぎる凛汰郎の髪型を見ると
前よりしゃれっ気があるなと思った。
「悪い、ぶつかった。」
雪菜の肩にぶつかる凛汰郎。
「あ、うん。大丈夫。」
恥ずかしいそうに下を向く。
振り向き様に指をさす。
「放課後、ラウンジで待ってて。」
「え、あ、うん。わかった。」
とっさに判断した。
部活を引退して、ほぼ一緒に帰ることが
多い2人。いつもは教室から一緒なのを、
ラウンジで待ち合わせるようだった。
「ふーん、ラブラブそうじゃん。」
「ふ、普通だよ。ただ、一緒に帰るだけだもん。」
「雪菜、可愛い。」
「えー?」
化学室にそれぞれ、入って行く。
移動する時間が濃密だった。
授業が始まってもまだドキドキが止まっていなかった。
放課後、ホームルームが終わって、
凛汰郎は、忙しそうに教室を出た。
どこかに用事があるんだろう。
雪菜はそんなふうに思いながら、ラウンジに向かう。
「雪菜、また明日ね。」
「うん。緋奈子、
あとで先輩のこと
教えてね。
んじゃ、また。」
「う、うん。んじゃね。」
手を上げて、別れを告げた緋奈子は、
教室を出て、雅俊がいる、
2年の教室へ向かった。
ガタガタといすを動かす音が響く。
生徒たちが移動し始めた。
廊下におしよせる。
「お待たせしました。
行きますか。」
「別に待ってないよ。」
「先輩、化粧品変えました?
やけに艶感がありすぎません?」
背中にスクールバックを背負う雅俊。
「そういうの聞かないでいい。
察して。大体わかるでしょう。」
「俺のおかげっすか。
昨日は激しかったもんね。」
「ちょ、そういうの言わないで!!」
「ぷぷぷ…。」
口を手でおさえて、笑う雅俊。
いじるのを楽しんでいる。
それを追いかける緋奈子。
廊下で集まっていた同級生たちは
その言葉を聞いて、どきまぎしていた。
噂が広がりそうだった。
緋奈子は今まで学校で、
紺色ソックスで過ごしていたが、
雅俊と付き合うようになって
ルーズソックスに目覚めた。
突然、ギャルっぽい印象になりたくなった。
やったことのないつけまつげをつけたり、
女子力があがっていた。
その頃のラウンジでは、
ベンチで足をぶらぶらと動かしながら、
凛汰郎を待っていた。
すると、見たこともない体格の良い
めがねをした男子生徒が近づいてきた。
「あ、あの…3年の白狼先輩ですよね?
弓道部の…。」
「え、あ、はい。
そうですが。」
男子生徒の額から汗が滴り落ちる。
興奮しているようだ。
どうしたらよいかわからず、雪菜は
とりあえず適当に対応する。
「あ、あ、あ。あの、俺、前から
見てたんですけど、そのクマのぬいぐるみ
可愛いですね。」
鼻息が荒い。顔を近づけてバックについてる
ぬいぐるみを指さす。
「そ、そうかな。
ありがとう。」
「先輩も可愛いですよ。」
かなり顔が近い。
興奮のせいか汗をたくさんかいている。
何とも言えずに後ずさりする。
「おい、何してんだ?!」
「え、え、え、え。俺は何も。」
お相撲のように体格のよい男子生徒は、
焦って少し後ろに移動するが、
凛汰郎は警戒心強く、雪菜を引き離して、
自分の後ろに移動させた。
「少し近くスペース考えろよ。
パーソナルスペースってあるだろ。
気を付けろ。」
「あ、すいません。
でも、俺何もしてませんけどね!!!
というか、あなた、誰なんですか?
最近、雪菜ちんにうろつきまわって、
みんなの雪菜ちんなんですよ。
掟破りです!!」
急に態度が一変する男子生徒。
どうやら、雪菜のファンクラブという噂は
本当のようだ。雅俊と同じ境遇だ。
「みんなの雪菜だ?
おかしなやつだな。
俺は雪菜の彼氏だ!!!」
キレながら、話す凛汰郎。
なんだか性格に合わないセリフだった。
無理して言ってるのが手にとるようにわかる。
「!?」
息をのんでびっくりする。
「それはファンクラブ隊長の許可を得ての
発言ですか?!」
「ファンクラブの許可なんていらないだろ。
好きかどうかは本人が判断するんだよ。
ほら、行くぞ。」
「な、な、抜け駆けはずるいですよ。」
「……。」
雪菜の腕をつかんで、
凛汰郎は、ラウンジを出る。
男子生徒は苦虫をつぶした
ような顔をしていた。
2人は、逃げるように
昇降口に向かった。
緋奈子と雅俊は手すりに手をかけて
外を眺めた。
「嘘、なんでしょう?」
髪をかきあげる緋奈子。
雅俊は、じっと目を外に向けたままだった。
「……。」
両手を伸ばして組んでいた腕を
頭の後ろに置いた。
「半分嘘で、半分本当っす。」
「知ってるよ。
本当は、雪菜にカマかけたかった
でしょう。」
「近くにいて、ほとんどのことを
あいつのこと知ってても、
恋人にはなれないって
悲しいですよね。
幼馴染にならなきゃよかった。」
天を仰いで、ため息をつく。
「うらやましいなぁ。
逆を言えば、どんな状況でも
ずっと近いところにいるじゃない。
恋人という境界はこえられなくとも
近い存在には変わりない。
近すぎてダメになるよりちょうどいい。」
緋奈子は、雅俊の肩に手を置いた。
「雪菜の代わりにはなれないけど、
力にはなるよ?」
肩に顔をうずめた。
頭をなでなでされた。
撫でた手をつかんだ。
「俺、歯止めきかないっすよ?」
目と目が見つめ合った。
「いいよ。それで気が済むなら。」
雅俊は、緋奈子の後頭部をおさえて、
唇を重ね合わせた。
叶わない恋など追いかける必要はない。
受け止めてくれる誰かがいるのなら
それでいいと思い始めていた。
東の空で飛行機雲が少しずつでき始めている。
◇◇◇
数日後、とある休み時間、移動教室で
これから化学室に行こうと教室の机から
教科書とノート、筆箱を出して、
廊下に足を進めた。
「ほら、雪菜、化学室行くよ。」
緋奈子が、手招きする。
今日の緋奈子は、アップのおだんごで
うなじが綺麗に見えていた。
化粧がいつもよりツヤツヤしていた。
「あれ、緋奈子。今日、肌艶がいいね。
ツルツルしてる気がする。
うらやま~。」
つんつんと指で頬を触った。
そういわれて、少し頬を赤らめる。
「え、そうかなぁ?」
「化粧品変えた?
ファンデとか?」
「うーんと…別に変わりないけど。」
「ふーん。そうなんだ。」
「あ、そういやぁ、
最近の話と言えば、
先輩とより戻したかな。」
緋奈子は、大嘘をついた。
本当のことを言うと、
雪菜が傷つくのではないかと
思って言えなかった。
「え、嘘。あんなに相手の彼氏のこと
嫌がっていたのに?」
「……まぁ、いろいろあんのよ。
それより、そっちはどうなの?
凛汰郎くんとはどこまで?」
「……。」
急に自分のこととなるとものすごく
恥ずかしくなる雪菜は顔を真っ赤にして
人差し指をつんつんと動かした。
「なんだ、進展なしか…。」
「そ、そんなことないよ。
ここでは言えないだけだから。」
近くを凛汰郎が通り過ぎる。
噂をすればなんとやら。
緋奈子は通り過ぎる凛汰郎の髪型を見ると
前よりしゃれっ気があるなと思った。
「悪い、ぶつかった。」
雪菜の肩にぶつかる凛汰郎。
「あ、うん。大丈夫。」
恥ずかしいそうに下を向く。
振り向き様に指をさす。
「放課後、ラウンジで待ってて。」
「え、あ、うん。わかった。」
とっさに判断した。
部活を引退して、ほぼ一緒に帰ることが
多い2人。いつもは教室から一緒なのを、
ラウンジで待ち合わせるようだった。
「ふーん、ラブラブそうじゃん。」
「ふ、普通だよ。ただ、一緒に帰るだけだもん。」
「雪菜、可愛い。」
「えー?」
化学室にそれぞれ、入って行く。
移動する時間が濃密だった。
授業が始まってもまだドキドキが止まっていなかった。
放課後、ホームルームが終わって、
凛汰郎は、忙しそうに教室を出た。
どこかに用事があるんだろう。
雪菜はそんなふうに思いながら、ラウンジに向かう。
「雪菜、また明日ね。」
「うん。緋奈子、
あとで先輩のこと
教えてね。
んじゃ、また。」
「う、うん。んじゃね。」
手を上げて、別れを告げた緋奈子は、
教室を出て、雅俊がいる、
2年の教室へ向かった。
ガタガタといすを動かす音が響く。
生徒たちが移動し始めた。
廊下におしよせる。
「お待たせしました。
行きますか。」
「別に待ってないよ。」
「先輩、化粧品変えました?
やけに艶感がありすぎません?」
背中にスクールバックを背負う雅俊。
「そういうの聞かないでいい。
察して。大体わかるでしょう。」
「俺のおかげっすか。
昨日は激しかったもんね。」
「ちょ、そういうの言わないで!!」
「ぷぷぷ…。」
口を手でおさえて、笑う雅俊。
いじるのを楽しんでいる。
それを追いかける緋奈子。
廊下で集まっていた同級生たちは
その言葉を聞いて、どきまぎしていた。
噂が広がりそうだった。
緋奈子は今まで学校で、
紺色ソックスで過ごしていたが、
雅俊と付き合うようになって
ルーズソックスに目覚めた。
突然、ギャルっぽい印象になりたくなった。
やったことのないつけまつげをつけたり、
女子力があがっていた。
その頃のラウンジでは、
ベンチで足をぶらぶらと動かしながら、
凛汰郎を待っていた。
すると、見たこともない体格の良い
めがねをした男子生徒が近づいてきた。
「あ、あの…3年の白狼先輩ですよね?
弓道部の…。」
「え、あ、はい。
そうですが。」
男子生徒の額から汗が滴り落ちる。
興奮しているようだ。
どうしたらよいかわからず、雪菜は
とりあえず適当に対応する。
「あ、あ、あ。あの、俺、前から
見てたんですけど、そのクマのぬいぐるみ
可愛いですね。」
鼻息が荒い。顔を近づけてバックについてる
ぬいぐるみを指さす。
「そ、そうかな。
ありがとう。」
「先輩も可愛いですよ。」
かなり顔が近い。
興奮のせいか汗をたくさんかいている。
何とも言えずに後ずさりする。
「おい、何してんだ?!」
「え、え、え、え。俺は何も。」
お相撲のように体格のよい男子生徒は、
焦って少し後ろに移動するが、
凛汰郎は警戒心強く、雪菜を引き離して、
自分の後ろに移動させた。
「少し近くスペース考えろよ。
パーソナルスペースってあるだろ。
気を付けろ。」
「あ、すいません。
でも、俺何もしてませんけどね!!!
というか、あなた、誰なんですか?
最近、雪菜ちんにうろつきまわって、
みんなの雪菜ちんなんですよ。
掟破りです!!」
急に態度が一変する男子生徒。
どうやら、雪菜のファンクラブという噂は
本当のようだ。雅俊と同じ境遇だ。
「みんなの雪菜だ?
おかしなやつだな。
俺は雪菜の彼氏だ!!!」
キレながら、話す凛汰郎。
なんだか性格に合わないセリフだった。
無理して言ってるのが手にとるようにわかる。
「!?」
息をのんでびっくりする。
「それはファンクラブ隊長の許可を得ての
発言ですか?!」
「ファンクラブの許可なんていらないだろ。
好きかどうかは本人が判断するんだよ。
ほら、行くぞ。」
「な、な、抜け駆けはずるいですよ。」
「……。」
雪菜の腕をつかんで、
凛汰郎は、ラウンジを出る。
男子生徒は苦虫をつぶした
ような顔をしていた。
2人は、逃げるように
昇降口に向かった。