ソネットフレージュに魅せられて

第50話

がやがやとたくさんの生徒たちで、
昇降口は騒がしかった。

放課後の靴箱で、雪菜は外靴に履き替えた。

バックを持ち直して、立ち上がる。

横からひょこっと、ズボンのポケットに
手を入れて、雅俊はのぞく。

「靴履けた?」

「うん。」

「んじゃ、いこっか。」

 雪菜を誘導し、段差をおりる。

「くかぁー、何か、新鮮だ。
 許可おりて、まさか隣に雪菜いるなんて
 今までかつてないから。
 マジで新鮮。」

 前歯を光らせて、ニカッと笑う。

「何よ。」

 照れているのか怒っているか自分でも
 わからない表情を浮かべる。

「いいんでしょう?手、つないで。」

 左手で、雪菜の右手をにぎり、
 雅俊の胸元でアピールする。

「べ、別に…いいけど。」

 それを見ていた外野が悲鳴をあげる。
 そんなに手をつなぐだけで驚くか。
 ファンクラブがあるのはやっぱり怖い。

「あ、やっぱ、やめようかな。」

 周りの反応で、さっさと手をひっこめた。

「な、なんで。
 せっかく、手つなげたのに…。」

「だって…。」

「周りなんて気にするなよ。
 俺たちの世界でいいだろ?
 まったく、どこ気にしてるんだか…。」

 雅俊は、ぷんぷんと頬を膨らませて、
 引っ込めた雪菜の手をつないだ。

 「わかったよ…。」

 不満げな顔を見せながら、言う通りに
 行動する。

 世間一般から見たら、いわゆる美男美女と
 言われて、輝いて見える2人も、
 それぞれに不満はある。
 2人しかわからない事情とか、
 外野なんて知らない。
 手つないでいたって、どれくらいの仲良しかとか
 どれくらいの交際期間とか知る由もない。

 2人は、幼馴染であり、
 幼稚園児からの付き合いで、
 雪菜が5歳から18歳だから、
 13年も期間が経っているが、
 お互いが同意あって交際と認めるのは、
 今回が初めてだ。
 
 どこか背中がそわそわするというか
 胸がざわざわする。

 自分でいいなとか好きだなとか思って
 今に至っているのに、過去の遠い記憶を
 たどると恥ずかしい出来事ばかりが
 思い出される。

 お互いの恥ずかしい思い出を想像すると
 なんで隣にいるんだっけと思ってしまう。
 自分で選んだはずなのに。

 パンツひとつ姿のまま雪菜の前に披露して
 ふざけたり、公園で夢中で遊んでる時に
 おもらししてしまっていたり、
 小さい時の記憶が無い方が、
 かっこよく見えるのに、何だか変なフィルターが
 急に3Dめがねをするようになっている。

「ふっ・・・・。」

 思い出し笑いがとまらない。

「な、なんで、急に笑ってるんだ?」

「なんでもない。
 何か思いだしただけ。」

「あ、そう。
 思い出し笑いするやつって
 すけべらしいよな。」

「は?」

「やーい。すけべな雪菜。」

「……。」

 怒り心頭。つないでた手を離す。

「あ。」

 やっちまったという顔をする雅俊。

「もう言わないから。
 ごめんなさい。」
 
 顔の前に手を合わせて謝罪をする。
 犬のようにかわいい姿に思わず、
 許してあげたくなる。
 こんなにまつげ長かったかな。

「わかったよ。許すから。
 その代わり、何かおごって?」

 高校前にあるコンビニ指さして、
 雪菜はニコニコという。

「はいはい。わかりました。
 よくバイト代が入ったばかりって
 わかるよな。」

「え、そうだったの?」

 駆け寄って、雅俊の腕をしがみつく。

「マジ、近い。
 何、さっきとの差。」

「おごられるならサービスしないとね。」

「キャバクラか?」

「何それ。
 そういう意味じゃないけど。」

「胸触らせてくれるなら…。」

 頬に一発、平手打ち。

「えっと…何、おごってもらおうかなぁ。」

「切り替え早すぎない?」

 たたかれた頬を抑えて、
 先に入って行く雪菜を追いかけた。
 コンビニの自動ドアを開いた。

「最近、マイブームだから。
 これにする。」

「何、肉まん?」

「うん。豚まんが食べてみたいかな。
 この間は普通の肉まん食べたんだよね。」

「は?何言ってんの?
 ピザまんでしょう。
 あと、カレーチーズまんだよ。」

「え、あーそうだっけ。
 あ、思い出した。
 凛汰郎くんと食べたのが
 肉まんだった。」

「あ?!!
 なんで平澤先輩の話すんの?」

「え、あー。ごめん。」

「何かムカつく。」

「雅俊、やきもち焼いてる。
 あんこもちですか?」
 
 やきもち焼いてるのを
 少しうれしかった雪菜。

 ものすごく不機嫌になる雅俊。
 青筋を立てて、睨む。

「肉まん買いたくなくなってきた。」

「えー、食べたいのに。」

「やだ。
 俺買って行った肉まんのこと
 忘れてたから。
 つい最近なのに。」

 ぶつぶつと文句を言ってそっぽを向く。
 雪菜は買ってくれないとわかると
 自分の財布から、お金を取り出して、
 やっぱり肉まんを店員に注文していた。

「ちょっと、そこはピザまんでしょう!!」

「え。あー、じゃぁ、ピザまんで。」

 雪菜は慌てて、肉まんからピザまんに変更した。

「雪菜、今日から肉まん禁止ね。
 ピザまんかカレーチーズまんだけ。」

「えー、なんで食べ物制限するの?」

「だから、ムカつくって言ってるの。
 なんで、平澤先輩なんだよ。 
 ちくしょう。」

 些細なことで雅俊を怒らせるようになる。
 雪菜はもう凛汰郎の話は
 雅俊の前でしないことにした。
 ちょっと面倒な人だなと感じた。

 一人コンビニの出入り口で、
 黙々と腕を組んで
 イライラしている
 雅俊の横で、ピザまんを食べた。
 
 何だか味気ないピザまんだった。
 
 凛汰郎と食べた肉まんは最高においしかったなと
 思い出してしまう。




 


 

 
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