ソネットフレージュに魅せられて

第55話

革靴を見つめて、誰か来たかと
顔を見上げると、スーツを来た大人の
男性が立っていた。

こちらを見て、声を掛けたそうにしている。

「あ、あの…。
 マッチングアプリで
 齋藤で登録してる人の
 代わりで来たんですけど…。」

(雅俊のことかな…。齋藤だったから。)

「あ、はい。
 待ち合わせ…。
 ですよね?」

もう、半ば誰でもいいって思っていた。
自分に話しかけてくれてるし、
きっと雅俊がお願いした人なんだろうと
思い、自然の流れで着いていく。

男性は、頬を赤らめて、
可愛いなぁと平気な顔をして
雪菜の隣に近づいて、
街中の方へ足を進めた。

全く見たことない知らない人。

明らかに年上で、お仕事してるのかなと
想像しながら、歩いていく。

すると、後ろから、突然、
左腕を掴まれた。

「ちょ、何してるの?!」

 まさかの引き留めに
 まるでスローモーションに
 なった感覚だった。
 ㇵッと現実を取り戻す。

「え?!なんで?」

「すいません、人違いです。
 他をあたってください。」

 彼は、ぐいっと腕を引っ張って、
 男性から引き離された。

 スーツの男性は、寂しそうな顔をして、
 もう1度、待ち合わせ場所である
 ステンドグラスに戻っていく。

「……どうしてここに?」

 冷静になって向き合う。

「俺だから。
 雅俊に頼まれたの。
 今日、どうしても
 行ってほしいって
 言われたから。」

「え、でも、なんで。
 なんで、凛汰郎くんなの?」

なんでの言葉がしつこいくらい
連続が続く。

「いいから。行くよ。」
 
 雪菜の言葉は聞きもしないで、
 手を繋いで、先々に進んでいく。
 なぜか心臓の高鳴りが早くなる。

 さっきまで嫌な気持ちだったのが、
 わくわくし始めた。

 大きな駅の中の時計の時間は、
 17時40分は過ぎていた。

 手を繋いだまま、一歩先に歩く。
 何も話せない。

「ったく、
 なんでギリギリの
 時間の予約なんだよ…。
 ってかさ、雪菜、
 知らない人に着いていくなよ!?
 あれ、明らかに嘘だって。
 釣りだろ。
 名前確認しないで
 連れて行かないだろ、普通。」

 額から汗を流しながら
 ブツブツとイライラしながら、
 凛汰郎は、雪菜に注意する。
 
 危なく、知らない大人に
 連行されそうになっていた。
 ギリギリで止めてもらってよかったと
 安堵した。
 
「ご、ごめんなさい。
 今日、雅俊が来ないって言うから…。
 何かどうでも良くなっちゃって。
 声掛けられて嬉しくなった。」
 
 口角が上がってきた。

「危なかったな。
 来てよかったわ。
 ……悪いけど、
 予約時間18時らしいから急ぐよ。」

「え、あ、うん。
 わかった。」


 2人は久しぶりに隣同士歩いて、
 お互いにドキドキしていたが、
 しばらく話もしてなかったのに
 何だかそわそわとよそよそしい
 雰囲気だった。


一方、その頃の雅俊は、
風邪を引いた代わりにバイトだと、
言っていたが、
本当は自分自身が風邪を引いて
高熱を出していた。

部屋のベッドで横になっては、
冷えピタを額に貼って
眠っていた。

寝返りを打って、スマホを眺める。

(これでよかったんだよな。
 これで……。)

息を荒くして、
ラインの既読を確認する。

手からスマホを落とすと、
1通のメッセージが来ていた。
宛名は【梨沙】から
『風邪大丈夫?
 お大事にしてね。』

本当のことを話していたのは
バイト先の先輩で元カノの梨沙だった。

メッセージを
見ることをせずに、
そのまま眠りについた。



雅俊は、雪菜と凛汰郎にうまい具合に
2人が会えるようにセッティングしていた。

当日に風邪をひくのは予測してなかったが、
前々から考えていた。
雪菜との関係性が良くないと感じ始めたときに
思いついた。

神様が存在するなら、きっと、
自分はお家で休んでおけということなんだろう。

最近の雪菜の行動や言動に
気持ちが離れてることが
何だか落ち着かなかった。
この行動を起こすことによって
幾分穏やかになりつつあった。

ライバルである凛汰郎は、
なんだかなんだで
雅俊とスマホの
オンラインゲームはずっと
やり続けていた。

そのきっかけで、
デートに土壇場で行けなくなったと
約束時間の30分前に言うと
最初は面倒になった凛汰郎は、
なんとなく、雪菜がかわいそうと
思い始めた。

仕方ないから行くしかないと
現在に至った。


(なんで汗たくさんかいてるのかな。
 冬なのに、体冷えないかな。)

 雪菜は横にいて、変に
 凛汰郎の状態が気になった。
 汗で体が冷えないようにと
 自分のしていたマフラーをかけた。

 ペデストリアンデッキでは、
 クリスマスツリーのイルミネーションが
 光っていた。

「あ、なに。
 どうした?」

「風邪ひいちゃうと思って。
 汗かいてるから。」

「あ、うん。
 ごめん。
 んじゃ、借りるわ。」

「なんで、汗かいてるの?
 走ってきた?」

「……ああ。
 雅俊のやつ、
 待ち合わせ時間の30分前に言うから、
 準備するのと、タクシー乗ってきて、
 おりてからあそこまで走った…。」

「そうだったんだ。
 電話くれればよかったのに…。」

「…そんな余裕なかった。
 だよな、電話すればよかったんだな。 
 待ち合わせもだけど、
 予約時間もギリギリなんだよな。
 定禅寺通りは
 ここから歩くと15分かかるだろ?」

 凛汰郎は、時間に差し迫ることに
 焦っていた。
 スマホでマップを開いて徒歩時間を
 調べている。

「う、うん。」

 雪菜は、それどころじゃない。
 なんで、別れたはずの凛汰郎が今ここに
 いることの方が気になって仕方ない。

 歩きながら話す凛汰郎に着いていく。
 つないでた手が離れた。

「ねぇ。」

 早歩きで階段をかけおりる
 凛汰郎に声をかける。

「え……。」

「聞いてもいい?」

「なんで今日、来てくれたの?」

 ハピナ名掛丁に入る前で、一瞬、立ち止まる。
 周りは人でごった返してる。
 そのままいたら、人におされたりしそうだった。
 気になった凛汰郎は、雪菜を端にひきよせた。

「ずっと待ってるのかわいそうだなって…。」

 ポケットに手を突っ込んでは、そっぽを向く。
 恥ずかしそうだった。

「かわいそうって…。
 それだけ。」

「……あ。それと、
 雅俊がかなり推して
 言ってきたのもあるし。
 キャンセル料とられるかも
 しれないからとか何とか…。」

「…お金の問題か。」

「いやその…。
 そういうわけじゃないけど。」

「別にいいよ。
 とりあえず行こう。
 そのレストラン。」

 なぜかもやもやした気持ちのまま
 雪菜は話を終わらせた。
 さっきまで手をつないでいたのに
 微妙な距離間で隣にいる。
 聞かなきゃよかったと後悔する。

 歩行者信号機の青の音が鳴り響く。
 2人は、沈黙のまま、定禅寺通りをめざした。

 行く先々でイルミネーションが
 飾られているのに、少しテンションがさがって
 綺麗に見えなかった。






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