魔女と呼ばれた子爵令嬢、実は魔女ではく聖女でした⁉

 何でよりによって⁉
 ロンバートの主ってディブラード公爵だったの⁉
 確かに、ディブラード公爵が聖獣士で竜の加護があるというのは有名な話だ。
 しかし、この幼い竜がパートナーだとは思いもしなかった。
 社交界で超注目されてる人が相手ではどの道なかったことには出来ない。
 今日のことは噂に尾ひれがついて社交界のネタになることだろう。
「いかにも、僕はミシェル・リ・ディブラード公爵。そういう君はルーチェ家のご令嬢かな?」
 その甘い声にエスティラは不覚にもドキッとする。
 流石、老若男女を虜にする男。
 どきどきしてる場合じゃないでしょう、私!
 しかも私のこと知っててくれて嬉しいとときめいている自分がいる。
 今は本当にそんな場合じゃない。しっかりしろ、自分。
『主いぃぃ~! 無事か⁉ 大丈夫か⁉』
 ロンバートは金髪の男性の周りを心配そうに飛び回り、最終的には肩に乗って頬ずりする。
「ロン? 全く、部屋から出るなって言ったでしょ」
 まるで猫の首根っこを掴むようにしてミシェルはロンバートを掴む。
『痛い! 痛い! そこは痛いんだって!』
 さっきとは別の意味で涙目になっている。
 本気で痛そう。
 しかし、聖獣に認められた者でも聖獣の言葉は聞き取れない。
「公爵様、聖獣が痛がっております。そこ、痛い所みたいで」
 エスティラの言葉にミシェルは大きく瞬きをしてロンバートから手を放す。
『エスティラ~。恩に着る!』
「ロンバート、首、大丈夫?」
『あぁ、掴まなければ平気だ』
「それならよ…………くはないわね」
 気付けばエスティラは城の警備兵に取り囲まれていた。
「貴様! 一体何者だ!」
「この無礼者を取り押さえろ!」
「公爵様に毒を盛ったぞ!」
 いやいやいや、盛ってないから!
 心の中で全力で否定する。
 ミシェルと共にワイングラスを持って乾杯していた男達がエスティラを指さして声を上げる。
「あれは魔女ではないですか?」
「まぁ、魔女が公爵様に毒を⁉」
「誰か早く捕まえろ!」
「違いますって!」
 エスティラは全力で否定するがエスティラの声に耳を傾ける者などいない。
 騒然となる会場でエスティラに敵意が向けられた。
「どいてくれ!」
 人混みを押し退けて聞き慣れた声が聞こえてきた。
 現れたのはロマーニオとウォレストだ。
「姉様!」
「エスティラ! 一体どういうつもりだ! このような騒ぎを起こしおって!」
 バチーンと乾いた音が響き、頬に強い痛みが走る。
 あまりにも強さと勢いで耳なりがし、ドサッとその場に倒れ込み、床に頭をぶつけてしまう。
『エスティラ!』
 ロンバートがエスティラの周りを心配そうに飛び回る。
『おい、大丈夫か⁉』
 鷲のルイーゼウと犬のクルードルがエスティラの側にやってきて顔を覗き込む。
『ったく、人間ってのはどうしてこう乱暴なんだ』
 ガルルルゥゥっとクルードルが威嚇するとロマーニオを一瞬怯えた表情を見せる。
「何だ、この犬は⁉ どっから入って来た⁉」
「叔父さん! 落ち着いて下さい!」
 すぐそこにいるはずロマーニオとウォレストの声が遠くに聞こえる。
 叩かれた頬が熱を持ち、痛みが増してくる。
 頭が痛い……目が回る…………。
 ふらふらとする身体を起こし、立ち上がろうとするが力が入らない。
「早く! この女を捕まえろ!」
「そうよ、兵は何をしているの⁉」
 ロマーニオの勢いに乗っかり、周囲がエスティラを捕えようという声が強まり始めた時だ。
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