魔女と呼ばれた子爵令嬢、実は魔女ではく聖女でした⁉
『アルス……』
マリアンヌが視線を向ける方を見るとそこにはマリアンヌの主人であるアルス・クランドが立っていた。
エスティラは高く掲げていたマリアンヌをそっと地面に降ろす。
「可愛い聖獣猫と戯れていただけですよ」
鋭い視線を向けるアルスだが、エスティラは飄々と答える。
するとマリアンヌは慌てた様子でアルスの足元に移動した。
「こんな所で何してた?」
苛立った声は一瞬エスティラに向けられたのかと思ったが、アルスの視線はマリアンヌに注がれている。
『違うのよ、アルス』
そう言ってマリアンヌの小さな白い前足がアルスの靴に触れようとした時だ。
「誰にでも良い顔しやがって」
アルスは悪態をついたと同時にマリアンヌの前足を振り払うように蹴り上げたのだ。
『きゃっ』
「やめなさいよ!」
マリアンヌの悲鳴のような声が発せられ、白い小さな身体が地面に転がる。
先ほど、マリアンヌの毛艶があまりよくないことが気になっていたが、エスティラはこの状況で何となく察した。
エスティラはマリアンヌの元に駆け寄り、地面に膝をついてマリアンヌを抱き上げる。
「マリアンヌ! 大丈夫⁉」
エスティラはマリアンヌを優しく抱き上げて膝の上で横にする。
小さく愛らしい口元に傷ができていた。
「あなた! この子はあなたの聖獣でしょ⁉」
マリアンヌに対してあまりにも乱暴なアルスにエスティラは声を上げる。
「ふん。聖獣といっても大した力もない。こんな役立たずと契約なんてするんじゃなかったぜ。どうせなら団長みたいな竜が良かった」
その言葉はマリアンヌにとってあまりにも非道だった。
マリアンヌの心もプライドも深く傷付ける言葉だ。
マリアンヌはエスティラの膝で身体を丸めて震えている。
その小さな姿を見たエスティラは悲しさを通り越して怒りが込み上げてくる。
「いい加減にしなさいよ! あなた、この子を何だと思ってるの⁉」
エスティラは怒りに任せて声を張り上げる。
「聖獣は人間の道具じゃない。人間が名声を浴びるためのアクセサリーでもない。あんたとこの子は対等な関係のはず。それなのに自分のパートナーをこんなに乱暴に扱うなんて、何様のつもりよ⁉」
『エスティラ……』
悲し気な声でマリアンヌが呟く。
「噂通り、うるさい女だな。全く、団長も見る目がねぇな」
エスティラを上から下まで流し見てアルスは言う。
マリアンヌの話では自分の恋が実らなくても好きな女の幸せを願う男のはずだが、今の発言からはそんなに優しい男には思えない。
「お前、随分性悪らしいじゃねぇか。男は見境なくとっかえひっかえ、我が儘で癇癪持ちでいつもリーナを困らせてるんだろ」
アルスの発言の中に聞き馴染んだ人物の名前が聞えた気がする。
「リーナも可愛そうだよな……あんなに真面目に頑張っていたのにっ……お前がアカデミーを諦めさせたんだろ⁉」
アルスは憤りをエスティラにぶつける。
やはり聞き間違いじゃなかった。
見知らぬ女の妬みかと思いきや、思いっきり見知った女だったことにエスティラは驚く。
「舞踏会の騒ぎも、団長の危機に一早く気付いたのはリーナだっていうじゃないか。本当なら団長から感謝されるのも、ここにいるのもリーナだったはずだ」
こちらの話を全く聞きもしないクセにアルスはリーナから吹き込まれた嘘をつらつらと並べてくれる。
本当に腹が立つ。
アカデミーに行きたくて真面目に努力したのは自分だ。
リーナはそんなエスティラをどうせ受かるはずがないと馬鹿にしていただけ。
いざ、エスティラに合格通知が届くとロマーニオに泣きついてエスティラの合格を握りつぶしたのはリーナの方だ。
私の人生を簡単に踏みにじったクセに被害者面するリーナもそれを信じてリーナを擁護する連中も腹立たしくて仕方ない。
散々泣いて、諦めをつけたのにこの話に触れるとあの時の悔しさが蘇ってくる。
エスティラは無意識に唇を噛み締めて、痛みで涙をせき止める。
今は泣いている場合じゃない。
マリアンヌが視線を向ける方を見るとそこにはマリアンヌの主人であるアルス・クランドが立っていた。
エスティラは高く掲げていたマリアンヌをそっと地面に降ろす。
「可愛い聖獣猫と戯れていただけですよ」
鋭い視線を向けるアルスだが、エスティラは飄々と答える。
するとマリアンヌは慌てた様子でアルスの足元に移動した。
「こんな所で何してた?」
苛立った声は一瞬エスティラに向けられたのかと思ったが、アルスの視線はマリアンヌに注がれている。
『違うのよ、アルス』
そう言ってマリアンヌの小さな白い前足がアルスの靴に触れようとした時だ。
「誰にでも良い顔しやがって」
アルスは悪態をついたと同時にマリアンヌの前足を振り払うように蹴り上げたのだ。
『きゃっ』
「やめなさいよ!」
マリアンヌの悲鳴のような声が発せられ、白い小さな身体が地面に転がる。
先ほど、マリアンヌの毛艶があまりよくないことが気になっていたが、エスティラはこの状況で何となく察した。
エスティラはマリアンヌの元に駆け寄り、地面に膝をついてマリアンヌを抱き上げる。
「マリアンヌ! 大丈夫⁉」
エスティラはマリアンヌを優しく抱き上げて膝の上で横にする。
小さく愛らしい口元に傷ができていた。
「あなた! この子はあなたの聖獣でしょ⁉」
マリアンヌに対してあまりにも乱暴なアルスにエスティラは声を上げる。
「ふん。聖獣といっても大した力もない。こんな役立たずと契約なんてするんじゃなかったぜ。どうせなら団長みたいな竜が良かった」
その言葉はマリアンヌにとってあまりにも非道だった。
マリアンヌの心もプライドも深く傷付ける言葉だ。
マリアンヌはエスティラの膝で身体を丸めて震えている。
その小さな姿を見たエスティラは悲しさを通り越して怒りが込み上げてくる。
「いい加減にしなさいよ! あなた、この子を何だと思ってるの⁉」
エスティラは怒りに任せて声を張り上げる。
「聖獣は人間の道具じゃない。人間が名声を浴びるためのアクセサリーでもない。あんたとこの子は対等な関係のはず。それなのに自分のパートナーをこんなに乱暴に扱うなんて、何様のつもりよ⁉」
『エスティラ……』
悲し気な声でマリアンヌが呟く。
「噂通り、うるさい女だな。全く、団長も見る目がねぇな」
エスティラを上から下まで流し見てアルスは言う。
マリアンヌの話では自分の恋が実らなくても好きな女の幸せを願う男のはずだが、今の発言からはそんなに優しい男には思えない。
「お前、随分性悪らしいじゃねぇか。男は見境なくとっかえひっかえ、我が儘で癇癪持ちでいつもリーナを困らせてるんだろ」
アルスの発言の中に聞き馴染んだ人物の名前が聞えた気がする。
「リーナも可愛そうだよな……あんなに真面目に頑張っていたのにっ……お前がアカデミーを諦めさせたんだろ⁉」
アルスは憤りをエスティラにぶつける。
やはり聞き間違いじゃなかった。
見知らぬ女の妬みかと思いきや、思いっきり見知った女だったことにエスティラは驚く。
「舞踏会の騒ぎも、団長の危機に一早く気付いたのはリーナだっていうじゃないか。本当なら団長から感謝されるのも、ここにいるのもリーナだったはずだ」
こちらの話を全く聞きもしないクセにアルスはリーナから吹き込まれた嘘をつらつらと並べてくれる。
本当に腹が立つ。
アカデミーに行きたくて真面目に努力したのは自分だ。
リーナはそんなエスティラをどうせ受かるはずがないと馬鹿にしていただけ。
いざ、エスティラに合格通知が届くとロマーニオに泣きついてエスティラの合格を握りつぶしたのはリーナの方だ。
私の人生を簡単に踏みにじったクセに被害者面するリーナもそれを信じてリーナを擁護する連中も腹立たしくて仕方ない。
散々泣いて、諦めをつけたのにこの話に触れるとあの時の悔しさが蘇ってくる。
エスティラは無意識に唇を噛み締めて、痛みで涙をせき止める。
今は泣いている場合じゃない。