悪女は破滅を身ごもる~断罪された私を、ヒロインより愛するというの?~
きっぱりと言い放ったアヴリーヌに、しかしジェイドは微笑みを深める。
「残念だけどね、アヴリーヌ。貴女にはもう、僕を拒むという選択肢はないんだ」
ジェイドの掌が、頬にひたりと押し当てられる。硬い皮膚の感触と高めの体温に思わず鼓動が跳ねたが、気づかれないよう平静を装った。
「ここは僕が密かに所有している郊外の屋敷だ。使用人も僕に忠誠を誓っている者しか置いていない。貴女は籠の中の鳥、これから僕に愛されるためだけに生きるんだ」
「こんな使い古された女より、まだ蕾の乙女を自分好みに育てる方が、男は楽しいのじゃなくて?」
自らの傷をえぐるような物言いで暗にエマを匂わす。しかしジェイドは鼻で笑って相手にしない。
「他の男の妻となり、酸いも甘いもかみ分けてきた憧れの人が、僕の愛で全てを塗り替えられていく。それに勝る喜びが、この世にあると思う?」
首筋に顔を寄せ、うっとりと夢みるような声で囁いてくる彼。
信じるものか、騙されるものか!
二度と男の――「彼」の誘惑になんてなびかない!
唇をぎゅっと噛みしめ返事をしないでいると、やがて諦めたのか、ジェイドが体の上からどいた。
無理矢理行為に及ばれることも覚悟していたが、どうやらギリギリ紳士的な態度を保ってくれるようだ。
「後で侍女を寄越そう。身の回りの世話は彼女に何でも申しつけてくれ」
「外に出るのは?」
「それは無理だね。第一、今更外に出てどうする? 何のためにエマに貴女を断罪させたか、理解しているだろう?」
ベッドを下りたジェイドが、思わせぶりに小首を傾げた。
わからないはずがない。つまり彼は「アヴリーヌ」を社会的に抹殺したのだ。ここから逃げ出したところで、アヴリーヌには最早居場所などない。
「もう夜も遅い。おやすみアヴリーヌ。次は貴女のベッドで共寝をさせておくれ」
もう一度アヴリーヌの手をとり軽く口づけた後、ジェイドは部屋を出て行った。
一人残されたアヴリーヌは、彼の温もりが残る手を複雑な想いで胸に抱く。「キャラクター」を無視して振るまう彼への混乱と、彼にいいようにされた怒り。そして認めたくないのに確かに胸によみがえる、男に求められた女としての喜び。
(愛してるなんて、信じるものですか)
奇しくも、前世で彼に捨てられた時と同じ歳にアヴリーヌはなっていた。
ジェイドになびくことは、前世からのプライドにかけて自分に許すことができない。男が本心ではどんな女を求めているのか、男がいかに容易く女を捨てるのか、自分は屈辱と共に魂に刻んだのだ。
「残念だけどね、アヴリーヌ。貴女にはもう、僕を拒むという選択肢はないんだ」
ジェイドの掌が、頬にひたりと押し当てられる。硬い皮膚の感触と高めの体温に思わず鼓動が跳ねたが、気づかれないよう平静を装った。
「ここは僕が密かに所有している郊外の屋敷だ。使用人も僕に忠誠を誓っている者しか置いていない。貴女は籠の中の鳥、これから僕に愛されるためだけに生きるんだ」
「こんな使い古された女より、まだ蕾の乙女を自分好みに育てる方が、男は楽しいのじゃなくて?」
自らの傷をえぐるような物言いで暗にエマを匂わす。しかしジェイドは鼻で笑って相手にしない。
「他の男の妻となり、酸いも甘いもかみ分けてきた憧れの人が、僕の愛で全てを塗り替えられていく。それに勝る喜びが、この世にあると思う?」
首筋に顔を寄せ、うっとりと夢みるような声で囁いてくる彼。
信じるものか、騙されるものか!
二度と男の――「彼」の誘惑になんてなびかない!
唇をぎゅっと噛みしめ返事をしないでいると、やがて諦めたのか、ジェイドが体の上からどいた。
無理矢理行為に及ばれることも覚悟していたが、どうやらギリギリ紳士的な態度を保ってくれるようだ。
「後で侍女を寄越そう。身の回りの世話は彼女に何でも申しつけてくれ」
「外に出るのは?」
「それは無理だね。第一、今更外に出てどうする? 何のためにエマに貴女を断罪させたか、理解しているだろう?」
ベッドを下りたジェイドが、思わせぶりに小首を傾げた。
わからないはずがない。つまり彼は「アヴリーヌ」を社会的に抹殺したのだ。ここから逃げ出したところで、アヴリーヌには最早居場所などない。
「もう夜も遅い。おやすみアヴリーヌ。次は貴女のベッドで共寝をさせておくれ」
もう一度アヴリーヌの手をとり軽く口づけた後、ジェイドは部屋を出て行った。
一人残されたアヴリーヌは、彼の温もりが残る手を複雑な想いで胸に抱く。「キャラクター」を無視して振るまう彼への混乱と、彼にいいようにされた怒り。そして認めたくないのに確かに胸によみがえる、男に求められた女としての喜び。
(愛してるなんて、信じるものですか)
奇しくも、前世で彼に捨てられた時と同じ歳にアヴリーヌはなっていた。
ジェイドになびくことは、前世からのプライドにかけて自分に許すことができない。男が本心ではどんな女を求めているのか、男がいかに容易く女を捨てるのか、自分は屈辱と共に魂に刻んだのだ。