悪女は破滅を身ごもる~断罪された私を、ヒロインより愛するというの?~
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ベッドに押し倒されたアヴリーヌの感覚の全てを、ジェイドが独占している。
顔を近づけてくる彼しか見えない。両手を握る彼の力強さしか感じない。そして甘く囁く彼の声しか聞こえない。
「貴女を苦しめる面影を、僕が粉々に壊してあげよう。僕がどれほど貴女を愛しているか、夢のようにじっくり味わってほしいな」
(……あなたを信じさせて、ジェイド)
キスで呼吸を止められながら、アヴリーヌは無意識のうちに頷いていた。
昼の夜の区別なく、アヴリーヌはジェイドに何度も求められた。
窓の鎧戸を叩く風雨より激しく、恥じる暇もないほど、アヴリーヌはジェイドに愛され続けた。
「愛しているよアヴリーヌ。貴女の心も体も全て、僕で満たしてあげる」
一回り歳下の若い情熱は、アヴリーヌを嵐のように翻弄した。息もできぬほど濃厚に愛され続て、甘い蜜の海に沈められていく。
「僕に愛されていること以外、何もわからなくていいんだよ」
(わからない……何も考えられない……)
「貴女は僕だけのものだ、愛するアヴリーヌ」
(私は……ジェイドだけのもの……)
※ ※ ※
ようやく解放された後、アヴリーヌは夢うつつのとろけた瞳でベッドの天蓋を見上げていた。金の髪は愛された名残で乱れたまま。裸の全身はぐったりと気だるく、指の一本すら動かすのが億劫だ。
だが、アヴリーヌの白い肌は幸福の薔薇色に染まっていた。想う男に宝物のように扱われ、愛していると睦言の雨を降らされた。
疑う余地がないほどの愛に溺れきったアヴリーヌは、うっとりと恋人の名前を呼んだ。
「ジェイド……」
ベッドの縁に腰掛けアヴリーヌの金髪を撫でていたジェイドは、笑みを深めて答える。
「幸せかい、アヴリーヌ?」
「ええ……愛しているわ」
「僕もだよ。この先もずっと変わらず、貴女を愛している」
ジェイドに向かって捧げるように両手を伸ばす。すぐに彼はアヴリーヌを抱き締め、濡れたままの赤い唇を塞いだ。
「いいの? 私はもう、あなたがいないと生きていけないような、厄介な女になり下がったのよ?」
「どうしてそんな風に貴女を悪く言うのかな。そうさせたのは僕だ。そうだろう?」
「そうね。……あなたは、悪い男だわ」
「光栄だね」
ジェイドは許してくれる。自分がどうなっても愛し続けてくれる。もう何も疑う必要はない。
(私はジェイドの「ヒロイン」になったのよ)
心からの幸せに満たされながら、アヴリーヌは恋人のたくましい体を縋るように抱き締めた。