悪女は破滅を身ごもる~断罪された私を、ヒロインより愛するというの?~
転生したアヴリーヌには幼い頃からぼんやりと前世の記憶があり、成長するにつれそれは鮮明になっていった。
ここがゲームの世界だとはっきり自覚したのは十年前。前国王に見初められ、この国に嫁いできた時だ。
国王の先妻――実母を亡くしたばかりの義理の娘に対面したことで、アヴリーヌはハッキリと理解した。自分がゲームの中の悪女「アヴリーヌ」であること。そして継母を不安そうに見つめているこの少女こそ、ヒーロー達に溺愛されハッピーエンドを迎えるヒロイン「エマ」だということを。
「設定」はこの世界のルールそのものだ。決められた「イベント」は必ず起こるし、「キャラクター」は設定通りに生きていく。
その証拠に、「ヒロイン」であるエマは誰からも愛された。何もしなくても微笑むだけで取り巻きが増えていく。反対に「悪女」アヴリーヌは、理不尽なほどに皆に疎まれ、蔑まれていた。
他国の生まれ、よそ者の女。美貌で国王に取り入った、卑しい下級貴族の娘。
美しいのに三十歳近くまで結婚できなかったなんて、性格に問題があるに違いない。(父の領地経営を手伝っていたからだと弁明しても無視された)。
お妃様を亡くしたばかりの国王様を誘惑して、後妻に無理矢理収まった。(強引に求愛してきたのは国王の方だ)
国王様におねだりして、贅沢なドレスや高価な宝石を貢がせている。(全部断っているのに、無理矢理押し付けてくる!)
アヴリーヌとて努力したのだ。前世からのまともな倫理観を備えていたので、公務をきちんと務め、周囲への優しさと気遣いを心がけ、よき王妃であろうとした。
だがどれだけ努力しても無駄だった。覆ることのない悪評価と聞こえよがしの嫌味。人々からの冷たい視線と陰口はアヴリーヌを蝕み、正しくあろうとする心をくじいていく。
――あいつは美人だけど性悪な女。
――浪費家で、わがままで、心の卑しい「悪女」。
そうして五年前の舞踏会。
アヴリーヌは、国王にプレゼントされたエメラルドのペンダントを胸元につけていた。国王がそうしろと強要したからだ。
ところがそのペンダントを見て、エマが大きな瞳を潤ませた。
「そのエメラルドは、お母様がお父様に贈った思い出の宝石……そんな大切なものまで、お義母様は奪ってしまうのですね」
家臣も侍女も居合わせた貴族達も、皆が皆エマに同情し、自分を睨み付けた。違うと叫びたくてもその声さえ封じてしまう、針の筵のような視線。
どう足掻いても、私は「悪女」にされてしまう。絶望とともに悟ったアヴリーヌの目に、大勢に慰められているエマと、前世で恋人を奪った彼女の姿が重なる。
自分は責められるばかり。自分の望んだ温かな気持ちは、ヒロインが全て奪い取ってしまう。
(……それなら、本当の悪女になればいい)
前世からの悔しさが、妬みが、憎しみや悲しみが、アヴリーヌの瞳に暗い決意の火を灯した。
どうしたって救われないと知ったアヴリーヌは、その瞬間誓ったのだ。
(幸福が約束されている「エマ」を、とことん苦しめていたぶって踏みにじる。私は本物の「悪女アヴリーヌ」になってやるのよ……!)
ここがゲームの世界だとはっきり自覚したのは十年前。前国王に見初められ、この国に嫁いできた時だ。
国王の先妻――実母を亡くしたばかりの義理の娘に対面したことで、アヴリーヌはハッキリと理解した。自分がゲームの中の悪女「アヴリーヌ」であること。そして継母を不安そうに見つめているこの少女こそ、ヒーロー達に溺愛されハッピーエンドを迎えるヒロイン「エマ」だということを。
「設定」はこの世界のルールそのものだ。決められた「イベント」は必ず起こるし、「キャラクター」は設定通りに生きていく。
その証拠に、「ヒロイン」であるエマは誰からも愛された。何もしなくても微笑むだけで取り巻きが増えていく。反対に「悪女」アヴリーヌは、理不尽なほどに皆に疎まれ、蔑まれていた。
他国の生まれ、よそ者の女。美貌で国王に取り入った、卑しい下級貴族の娘。
美しいのに三十歳近くまで結婚できなかったなんて、性格に問題があるに違いない。(父の領地経営を手伝っていたからだと弁明しても無視された)。
お妃様を亡くしたばかりの国王様を誘惑して、後妻に無理矢理収まった。(強引に求愛してきたのは国王の方だ)
国王様におねだりして、贅沢なドレスや高価な宝石を貢がせている。(全部断っているのに、無理矢理押し付けてくる!)
アヴリーヌとて努力したのだ。前世からのまともな倫理観を備えていたので、公務をきちんと務め、周囲への優しさと気遣いを心がけ、よき王妃であろうとした。
だがどれだけ努力しても無駄だった。覆ることのない悪評価と聞こえよがしの嫌味。人々からの冷たい視線と陰口はアヴリーヌを蝕み、正しくあろうとする心をくじいていく。
――あいつは美人だけど性悪な女。
――浪費家で、わがままで、心の卑しい「悪女」。
そうして五年前の舞踏会。
アヴリーヌは、国王にプレゼントされたエメラルドのペンダントを胸元につけていた。国王がそうしろと強要したからだ。
ところがそのペンダントを見て、エマが大きな瞳を潤ませた。
「そのエメラルドは、お母様がお父様に贈った思い出の宝石……そんな大切なものまで、お義母様は奪ってしまうのですね」
家臣も侍女も居合わせた貴族達も、皆が皆エマに同情し、自分を睨み付けた。違うと叫びたくてもその声さえ封じてしまう、針の筵のような視線。
どう足掻いても、私は「悪女」にされてしまう。絶望とともに悟ったアヴリーヌの目に、大勢に慰められているエマと、前世で恋人を奪った彼女の姿が重なる。
自分は責められるばかり。自分の望んだ温かな気持ちは、ヒロインが全て奪い取ってしまう。
(……それなら、本当の悪女になればいい)
前世からの悔しさが、妬みが、憎しみや悲しみが、アヴリーヌの瞳に暗い決意の火を灯した。
どうしたって救われないと知ったアヴリーヌは、その瞬間誓ったのだ。
(幸福が約束されている「エマ」を、とことん苦しめていたぶって踏みにじる。私は本物の「悪女アヴリーヌ」になってやるのよ……!)