悪女は破滅を身ごもる~断罪された私を、ヒロインより愛するというの?~

※ ※ ※

「私を断罪ですって?」

 フンッ、とアヴリーヌは鼻で嘲笑(あざわら)う。高圧的なその態度だけで、エマはビクリと身を固くした。

「私がいったい何の罪を犯したというのかしら? 言えるものなら言ってごらんなさい」
「それは……その……」
「フンッ、兵士を引き連れてきたくせに意気地のないお姫様だこと!」

 露悪的な口ぶりは、エマに嫌がらせをするため磨き上げたものだ。いびっていたぶっていじめ抜いたせいで、エマはアヴリーヌに足がすくむほどの恐怖心を抱いている。それこそ「設定」を上回るほどに。

「お、お義母様は……その、重い税金で(たみ)を苦しめて、ご自分は贅沢ばかりです。このままでは国が滅びてしまいます!」
「税金を払えないのは、民が(なま)けているからでしょう?」
「いいえ、夏が寒かったせいで、小麦が育たなかったんです。それに、秋は長雨で川が氾濫して……」
「その分の補填は、国の倉庫から出したわ。なのに民は節約するどころか我先に食べてしまって、そのくせ税金は踏み倒そうとする。卑怯じゃない?」
「ひ、卑怯じゃなくて……困ってるだけです!」
「じゃああなたがその綺麗なドレスでも売って、助けてあげれば? 私はもちろんイヤですけど」
「それは……」

 アヴリーヌは豪華なドレスを見せびらかしながら、言い返せないエマを嘲笑する。
 彼女は確かに思いやり深い善人だが、我が身を投げうって民を救えるほどの聖女でもない。
 
「それに、この国が他国から侵略されないよう守っているのは、気の弱い国王――あなたのお兄様ではなく、この私よ?」
「そんなことはありません! お兄様は優しくて立派な方です!」
「そうかしら? 先日、隣国との条約を交わした時だって、国王はへらへら笑ってるだけで何の役にも立たなかった。私が相手を脅して黙らせて、やっと譲歩を引き出したのよ」
「お義母様のように恐怖で相手を思いどおりにしようとするのは、間違っています!」
「お黙りなさい!」

 キッ、とエマを睨み付ける。
 彼女はいともたやすく顔面を蒼白にさせた。
 
「いいこと? 外交の場では、それは交渉っていうの。周りの大国に戦争でも起こされてしまったらどうするの? 攻め込まれないための条約を、優しさとやらでいい加減に結んでしまっていいのかしら?」
「そ、それは……」

 ゲームの「アヴリーヌ」は、ここまで理路整然とエマに反論しない。ヒステリックに金切り声を上げるだけで、むしろエマに諭されるほどだった。
 だが今のアヴリーヌには、前世の知識と弁舌の腕がある。お姫様として甘やかされて育った少女に、口で負けるわけがない。

(ふふっ、いい気味ね)

< 4 / 21 >

この作品をシェア

pagetop