悪女は破滅を身ごもる~断罪された私を、ヒロインより愛するというの?~
エマの悔しそうな顔に、「悪女」の心が満たされていく。もっと苦しませたくて、アヴリーヌはさらに言葉を重ねた。
「むしろ私をほめてほしいくらいね。国のために体を張っている私が贅沢なドレスや宝石に国庫のお金を使ったところで、何が悪いのかしら?」
「悪いですよ、とてもね」
そう答えたのは、悔しそうに唇を噛むエマではなく、兵士達の間から現れた長身の青年だった。
「ジェイド様!」
エマの顔がパッと輝く。緑がかった黒髪と、同じ色の瞳をもつ優しげな風貌。青年は彼女の傍に寄り添い、その細い肩を気遣わしげに抱き寄せる。
彼はオーデル侯爵家の若き当主、ジェイド。ゲームにおけるエマの攻略対象の一人である。
(……よりにもよって、彼を選んだのね)
ジェイドはエマより歳上の26歳。知略と武術に優れる一方、貴族らしい優美さも備える美男子だ。
女性と多くの浮き名を流しつつも、誰にも本気になれないクールで寂しい大人の男。しかしエマの相談相手になるうち、彼女の純粋な優しさや情熱に心動かされ、子供だと思っていた彼女を本気で愛していく――というのが、彼の「設定」である。
「アヴリーヌ殿。貴女が守っているのは国ではなく、貴女の地位だけですよ。本当に国を思っているのなら、潔く摂政の座から降りてください。……そして何より、僕の姫君を侮辱する言葉はお控え願いたい」
毅然と語るジェイドの台詞も、エマを背中にかばう凛々しい騎士のような姿も、ゲームの「シナリオ」そのまま。しかし彼の振る舞いは、ゲーム以上にアヴリーヌの胸をツキンと傷ませる。
(やっぱり、似ている)
細身ながら筋肉のついた長身、垂れ目がちで甘い雰囲気のある整った顔立ち。ジェイドは、前世のアヴリーヌを捨てた男を彷彿とさせた。彼がエマと恋仲になったのを知って以来、余計にその印象は強くなっている。
――寄り添う二人。祝福される恋人たち。
――選ばれるヒロイン、選ばれない私。
(やめて! これ以上私をみじめにしないで!)
エマを守るジェイドの姿に、アヴリーヌの心は嵐のようにかき乱された。
「むしろ私をほめてほしいくらいね。国のために体を張っている私が贅沢なドレスや宝石に国庫のお金を使ったところで、何が悪いのかしら?」
「悪いですよ、とてもね」
そう答えたのは、悔しそうに唇を噛むエマではなく、兵士達の間から現れた長身の青年だった。
「ジェイド様!」
エマの顔がパッと輝く。緑がかった黒髪と、同じ色の瞳をもつ優しげな風貌。青年は彼女の傍に寄り添い、その細い肩を気遣わしげに抱き寄せる。
彼はオーデル侯爵家の若き当主、ジェイド。ゲームにおけるエマの攻略対象の一人である。
(……よりにもよって、彼を選んだのね)
ジェイドはエマより歳上の26歳。知略と武術に優れる一方、貴族らしい優美さも備える美男子だ。
女性と多くの浮き名を流しつつも、誰にも本気になれないクールで寂しい大人の男。しかしエマの相談相手になるうち、彼女の純粋な優しさや情熱に心動かされ、子供だと思っていた彼女を本気で愛していく――というのが、彼の「設定」である。
「アヴリーヌ殿。貴女が守っているのは国ではなく、貴女の地位だけですよ。本当に国を思っているのなら、潔く摂政の座から降りてください。……そして何より、僕の姫君を侮辱する言葉はお控え願いたい」
毅然と語るジェイドの台詞も、エマを背中にかばう凛々しい騎士のような姿も、ゲームの「シナリオ」そのまま。しかし彼の振る舞いは、ゲーム以上にアヴリーヌの胸をツキンと傷ませる。
(やっぱり、似ている)
細身ながら筋肉のついた長身、垂れ目がちで甘い雰囲気のある整った顔立ち。ジェイドは、前世のアヴリーヌを捨てた男を彷彿とさせた。彼がエマと恋仲になったのを知って以来、余計にその印象は強くなっている。
――寄り添う二人。祝福される恋人たち。
――選ばれるヒロイン、選ばれない私。
(やめて! これ以上私をみじめにしないで!)
エマを守るジェイドの姿に、アヴリーヌの心は嵐のようにかき乱された。