悪女は破滅を身ごもる~断罪された私を、ヒロインより愛するというの?~
(……終わった)

 「悪女」は断罪された。「シナリオ」通りに、アヴリーヌの役目は終わったのだ。

「貴女にはしばらく謹慎していただく。……連れていけ」

 剣を鞘に収めたジェイドが命じる。
 アヴリーヌは腕を引こうとした兵士を「触らないちょうだい!」と一喝し、自力で立ち上がった。堂々と背筋を伸ばし優雅な足取りで、ジェイドとエマの前を通り過ぎる。
 
「……お義母様」
 
 エマは傷ついた顔でアヴリーヌを見つめていた。それは優しさではなく、優位からの憐れみに他ならない。少なくともアヴリーヌの目にはそう映った。
 アヴリーヌは足を止め、「ヒロイン」に向かって吐き捨てた。

「あなたのことなんて、何度生まれ変わっても大嫌いよ!」

 
※ ※ ※ 


 こうして悪女アヴリーヌは捕らえられ、謹慎の後に王都から追放された。
 国王は暴君を失脚させた妹姫を称え、彼女に王位を譲る。マリノ王国に初の女王が誕生し、エマは民達に祝福される中、戴冠式と共に結婚式を執り行った。永遠の愛を誓い合ったヒロインとヒーローは、末永く幸せに暮らすのだった。
 
 これが、ゲームのグッドエンディング。
 アヴリーヌの知っている「シナリオ」だ。


 
 だからアヴリーヌは知る由もない。
 彼女が去った後、細めた瞳で扉を見つめていたジェイドが、密かに妖しく微笑んでいたことを。

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