冷徹御曹司の偽り妻のはずが、今日もひたすらに溺愛されています【憧れシンデレラシリーズ】
「尊敬というより、愛情だけど……」
つい漏らした自分の声に、杏奈は慌てて首を横に振る。
昔からかわいがられているといっても、今では次期社長と一社員。立場の違いを考えれば響への想いは封印すべきだ。
その現実に納得していても、響から愛情深い眼差しを向けられるたび胸を高鳴らせ、耳もとで優しい言葉を囁かれるたび、全身が脈打ってどうしようもない。
最近では顔を合わせるたびに大きくなる恋心をもてあまし、泣きたくなるほどだ。
「そのミールキット、今回のヒットで年間を通して販売する通常商品に決まったんだ」
「え?」
杏奈は突然聞こえてきた響の声に、ひゅっと息を止める。
響がいつの間に来ていたのか、まったく気づかなかった。
「一昨日の役員会でも話題にあがって、担当役員はご機嫌だったらしい」
軽やかな声とともに背後から肩越しに伸びてきた手がタブレットの画面をタッチし、ミールキットの画像を拡大した。
背中に響の体温が重なり、杏奈はおずおずと振り返る。
「ひ、響君。早いね」
響は杏奈の肩に手を置いて、まるで抱き締めるように背後からもう一方の手を伸ばしている。
待ち合わせの時間にはまだ三十分以上あるが、杏奈が早く来ているのを見越して早めに来たのだろう。
響は百八十センチを超える長身で細身の身体に麻のスーツがよく似合っている。
ジャケットの下に見える淡いブルーのシャツはひどく鮮やかで、つい見とれてしまう。