冷徹御曹司の偽り妻のはずが、今日もひたすらに溺愛されています【憧れシンデレラシリーズ】
「やっぱり今日も早く来たんだな」
「うん。そうなの」
響は面白がるようにそう言って、大きな手で杏奈の頭をくしゃりと撫でる。
その慣れた仕草に杏奈は再び息を飲み込んだ。
響は昔からスキンシップ過多で、とくに杏奈が大学四年生のときに北尾食品に内定をもらってからというもの、それを隠そうとしなくなった。
必要以上に杏奈と身体を寄り添わせては親密な空気を作り出し、困らせるのだ。
生まれたときからの親しい付き合いだとはいえ、お互いの体温を感じるほどの密な距離感には今も慣れていない。
自分は単なる妹のような存在だとわかっていても、響は初恋の相手であり今も恋心を捨てきれずにいる相手だ。
甘い声や温かな体温に触れるたび心臓はきゅっと小さくなり脈は速くなる。
とにかくどうしていいのかわからない。
杏奈は肩に置かれたままの響の大きな手を横目で見つめつつ、止めていた息をそっと吐き出した。
「今日くらい俺が先に来て杏奈を待ちたかったんだけど」
響の声がダイレクトに鼓膜に届く。おまけに頭上にあった響の顔はいつの間にか杏奈の顔の真横にある。
「えっと……私も今来たばかりだから」
余裕を含んだ目で見つめられ、杏奈は慌てて目を逸らした。
「そのわりには紅茶がかなり減ってるけど」
響がおかしげに喉を鳴らした。
杏奈がかなり前に来ていたとお見通しのようだ。
「それは……」
「まあ、真面目で慎重な杏奈らしくてホッとする」