冷徹御曹司の偽り妻のはずが、今日もひたすらに溺愛されています【憧れシンデレラシリーズ】

「う、うん」

すぐ側に響の顔があり、杏奈は照れくささで熱くなった顔を隠すようにうつむいた。

真面目で慎重と言われても素直に喜べない。

特技も秀でた強みもない自分には、何事にもコツコツと丁寧に向き合うことぐらいしかできないからだ。

待ち合わせに遅れないよう心がけているのも真面目で慎重な性格の表れ。

相手が響だと、そこに早く会いたいという浮き立った想いが混じり、尚更早く来てしまう。

「そういえば、初川さんのホームページに個展の様子がアップされてたな」

「あ……」

首筋を掠める響の吐息がくすぐったくて、杏奈はつい声を漏らしきゅっと目を閉じた。

いきなりの刺激は心臓に悪すぎる。

響は戸惑う杏奈に構わず再び杏奈を背中から抱きしめるように手を伸ばし、タブレットを手早く操作した。

男性にしては細く長い指が、パステルカラーの明るい画面を呼び出した。

それは杏奈が中学生の頃から大好きな画家、初川季世のHPだ。

初川はパステルカラーの花の絵が有名な人気作家だ。

力強さと優しさを感じさせる絵からは元気をもらえると評判で、画集が出るたびに大きな話題になる。

日常を公開している彼女のSNSでは、結婚後授かったふたりの子どもの育児に奮闘している様子が発信されている。

夫のサポートを得て精力的に活動を続ける姿はとても魅力的で、作品だけでなく初川自身も杏奈の憧れだ。


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