『オーバーキル』一軍男子に脅かされています
「桃子」
「……何?」
「これ、やる」
「えっ……」
ポンと投げられたのは、缶のココア。
しかも、なぜホット?
「間違えて買ったから、お前にやる」
「は?」
「俺、甘いの飲まないから」
「……」
テラスの一角にある自販機コーナーで買ったのだろうけど。
今の時期にまだホットのものがあったんだ。
両親以外で私を『桃子』と呼ぶのは匠刀だけ。
虎太くんでさえ、『モモちゃん』と呼ぶ。
「ありがと」
「おぅ」
「えぇ~、匠刀飲まないなら、あたしにくれてくれればよかったのに~」
お昼ご飯を一緒に食べてた女の子が不服そうな顔をし、嫉妬のような眼差しを桃子に向けて来た。
「あの、飲みたいならあげますよ?」
「えっ、いいの~?」
別にココアが好きなわけでも飲みたいわけでもない。
匠刀が間違えて買ったものを無理やり押し付けられただけだ。
桃子は手にしているココアを匠刀の隣りにいる女子に渡そうとした、次の瞬間。
「くれた本人の目の前で他人にくれんな、気分わりぃ」
「あ……ごめん」
「欲しいジュース買ってやるから、人のもん欲しがんな」
「えっ、瑠美にも買ってくれるの?」
「……あぁ」
「わぁい♪匠刀、だ~いすきっ」
「あんまくっつくな、鬱陶しい」
匠刀が顎で『早く行け』と合図して来る。
言われなくても、もう行くよ。
あんたのイチャイチャしてるところなんて、見たくもない。
「モモ、もういいの?」
「うん、行こ」
テラスを後にし、教室がある2階へと向かう。
「ねぇ、モモ」
「ん?」
「幼馴染くん、お月様が来てんの、知ってんじゃない?」
「へ?」
「今朝のアレも、モモを思ってしてくれたじゃん」
「……」