『オーバーキル』一軍男子に脅かされています
美容師さんから改めて説明を受けた匠刀は、物凄く複雑な顔をした。
私の気持ちを汲んでくれてるのは分かる。
だけど、大事に伸ばし続けた髪を、一気に40センチくらい切ると言い出したからだ。
「匠刀。今日はお休みのところをわざわざ私のために開けて待ってて貰ったんだから、1カットでいいから……ね?」
「っんなこと言われたって…」
匠刀が躊躇する気持ちは分かるよ。
彼女の髪を切れと言われるだけでも躊躇うのに。
いきなり40センチもバッサリとは切れないよね。
「すみません、鋏かして下さい」
「……刃先に気を付けてね」
最初の1カットだから躊躇するんだ。
だったら、もう後戻りできないように、私が切ればいいだけ。
「おいっ、桃子っ!」
私は束ねられているフェイスラインの毛束を掴んで、ジョキッと切り落とした。
「マジかよ…」
「これで切りやすくなったでしょ」
「そういう問題じゃねーっつーのに」
鏡越しの匠刀は、ただただ溜息を零し続ける。
ごめんね。
嫌なことさせて。
だけどね。
これくらいしなきゃ、踏ん切りがつかないんだよ。
気持ちの上で必死に切り替えようと努力しても。
結局、弱い自分が心を占拠して。
どうやったら一歩前に進めるのか。
私なりにいっぱい考えたんだよ。
匠刀の将来。
私の未来。
誰かに指図されるでもなく。
私たちは私たちの進むべき道を進まないと。
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「何で匠刀が泣きそうになってんのよ」
「そりゃあなるだろ。お前が頑張って伸ばしたの知ってるのに…」
「髪はすぐ伸びるよ。また伸びたら切って貰うからね」
「やっ、マジで勘弁。前髪くらいなら幾らでも切ってやるけど、さすがにアレは勘弁だわ」
ごめんね、匠刀。
最後の最後まで嫌な想いさせて。
だけど、わがまま言うのも、これが最後だから許してね。