『オーバーキル』一軍男子に脅かされています

もう後悔したくないんだ。

小学校低学年の頃は、いつだって会えると思っていた。

入退院を繰り返していても、いつかは退院して帰って来ると疑わなかったし。
親に強請れば、お見舞いにだって連れてって貰えた。

それが『年頃の女の子だから』という理由で、お見舞いを控えるように促され。
『退院すれば、そのうち学校にも来れるようになるから』と諭された。

会いたくても我慢しなきゃならなくて。
今と違ってスマホもなくて。
桃子の親を通して、授業ノートを渡して貰うのを口実に、桃子の近況を聞くのが精一杯で。

自然と桃子との距離ができて、いつしか『幼馴染』という過去の存在に位置づけられたようなものだった。

更には自分の兄貴を好きだと分かり、行き場のない感情に押し潰される毎日だった。

それが、やっと。
10年という年月を経て、漸く『彼氏』に昇格できたばかりなのに。
またふりだしに戻ったみたいに、桃子との距離ができてしまうなんて。

「匠刀くん。悪いが、その願いは叶えてあげれない」
「……っ」

床に正座して、懇願してもダメだと言われた。
けれど、俺だってこのまま引き下がれない。

「今じゃなくてもいいんです。状態が良くなってからで構いません」
「……そうじゃないんだ」
「……？」
「桃子は、……この家には当分帰って来ないんだよ」
「へ？……そんなに悪いんですか？」
「そうじゃなくて。……何て言えばいいんだ」
「お父さん。……匠刀くんにはちゃんと説明しないと」
「……あぁ、分かってる」

顔を見合わせた二人は、溜息を吐きながら、申し訳なさそうな表情を俺に向けた。

「桃子は、地方の高校に転校したんだよ」