『オーバーキル』一軍男子に脅かされています


「それ、凄く大事にしてるよね。大切な人から貰ったの?」

寄宿舎の自室で、ルームメイトの夏帆が尋ねて来た。
桃子の手には、クリスマスデートで匠刀が作ってくれたステンドグラスのヘアピンが握られている。

「彼氏から貰ったの。クリスマスのプレゼントに」
「えっ?!モモちゃん、彼氏がいるの?」
「……正確には、いた……かな」

驚く夏帆に苦笑する。

「病気が原因で別れたの?」
「直接の理由は病気じゃないけど、結果的には私の心臓が原因かな」
「……何だか、複雑なんだね」

ルームメイトということもあって、夏帆には心臓のことを伝えてある。
万が一、急に体調が悪くなったりしたら、迷惑をかけてしまうからだ。

前もって事情を知っていれば、倒れたとしても、心構えができるから。

「私は彼氏がいたことないから分からないけど、好きだった気持ちとか思い出は、無理やりに忘れたり消そうとしなくていいと思うよ」
「へ……?」
「生きるってそういうことじゃない。今があるのは過去があるからで、未来があるのは今があるから」

あぁ、そういうことか。
キリストの教えというか。

誰しもが、かけがえのない存在だから。
生きることを否定しなくていいという考え。

愛と希望をもって、生きる力を育てる理念だ。

夏帆ちゃんは抗がん剤の影響で、暫く髪が生えて来なかった過去がある。
何年か前まで、ずっとスキンヘッドに近い状態だったらしくて。
シスターみたいに長く美しい髪を整えるのが夢の一つらしい。

この学校に来る前にヘアドネーションをしたということを話したら、いつか自分もしてみたいと新たな目標ができたらしい。

彼女のような清い心でヘアドネーションしたわけじゃない。
過去と決別するかのように、一歩踏み出したくてしただけの自分が、恥ずかしく思えた桃子だった。
< 127 / 165 >

この作品をシェア

pagetop