『オーバーキル』一軍男子に脅かされています

土曜日の昼過ぎ。
鍼灸院の土曜の診療受付時間は午後3時から7時半まで(当院カレンダーによる)。

塾が無い日に鍼灸院の手伝いをしている桃子。
今日は母親に頼まれ、とある店へとお使いに出ている。

最寄り駅の反対側にある寝装具専門店。
鍼灸院で使用するスリッパを注文してあって、それの受取りに行く。

「重たくない?大丈夫?」
「あ、はい、大丈夫です」

『仲村 鍼灸・整体院』と印刷されているスリッパ15足分を受取り、店員さんに会釈し店を後にする。
本来ならば配達もしてくれるし、工場から直接発送もして貰えるらしい。

けれど、うちがわざわざそれをしないのには理由がある。

本当は家業の手伝いではなく、他の子たちと同じようにアルバイトがしたい桃子。
けれど、心臓に不安要素のある桃子は、両親からの許可が下りないのだ。

買いたいものは年齢相応にあるけれど、お小遣いだけでは到底足りない。
鍼灸院の手伝いは僅かなもので、たまにこういう手伝い的な臨時収入を期待するほか術がない。

自ら買って出たようなもの。
少しでもお金を貯めたい桃子は、両手に食い込む紙手提げ袋を必死に持つ。

駅のコンコース内を歩き、自宅へと向かっていた、その時。

「モモちゃん」
「……こんにちは」
「お手伝い?」
「あ、……はい」
「重たそうだね。家まで持って行ってあげるよ」
「えっ、あ、大丈夫です!……本当に」

休みの日に会えるなんて、超ラッキー!
私服姿の虎太くんは、アスリートモデルかと思うくらい周りの目を惹く。

会えただけで嬉しいのに、こういうさりげない優しさにくらっとしてしまう。
本当に紳士的でカッコイイ人だ。

「浮気?」

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