『オーバーキル』一軍男子に脅かされています
**

「ここは……?」
「勉強に専念するための部屋」

結局、私は匠刀への想いを封じ込めることができず。
『渡したい物がある』と言われてついて来た。

白星会医科大学のキャンパスから程近い、とあるマンションの一室。

医学書だけでなく、色んな分野の書籍がびっしりと埋め尽くされた本棚と。
部屋の隅に置かれた筋トレグッズやバイク雑誌。
匠刀らしい部屋に、思わず笑みが零れた。

「兄貴がさ、結婚することになったの知ってる?」
「えっ、虎太くん、まだ結婚してなかったの?」
「おっ、そっちの反応か」
「私はてっきり、もう学生結婚してるかと思ってたよ」
「俺もそうなるかと思ってたけど、まぁ兄貴なりに彼女の気持ちを最優先したんだろうな」

それもまた、虎太くんらしい。

「とりあえず、実家じゃなくて二人で新婚生活スタートさせるみたいだけど。花嫁修業なのか?よく分かんねーけど、最近毎週末泊りに来てるし」
「フフフッ、虎太くんがゴリ押しで誘ってるのが目に浮かぶ」
「だよな。だから、なんとなく居づらいっつーのもあるし、試験勉強に集中したいのもあって、ここ借りたってわけ」
「……そうなんだ」

今風のデザイナーズマンションの8階にある1DK。
角部屋だから、少し変わった形のベランダがお洒落で。
夏だったら夕涼みをしながら、夜景を楽しむのもいいんじゃないかな、だなんて思ってしまった。

「桃子」
「ん?」

窓の外から視線を彼に向けた、その時。

「やる」
「……?」

何だろう。
懐かしい記憶が蘇る。
いつも照れくさそうに差し出して来た右手。
ぎゅっと握られたその手の中には、私の大好きないちごみるくキャンディーが握られていた。

ちょっぴり嬉しくなりながら、彼の手の下に手のひらを差し出す。
すると、ぽとっと。
いちごみるくのキャンディーよりも重いものが手の中に落ちた。

< 153 / 165 >

この作品をシェア

pagetop