『オーバーキル』一軍男子に脅かされています
(匠刀視点)

6年会わない間に、桃子が必死に努力してたのは想像がついたけど。
『走れるようになったし、泳げるようにもなったよ』という言葉に、正直驚いた。

俺のそばにあのままいたら、6年経った今も同じだったかもしれない。
そりゃあ少しは体力がついて、少しずつ色んなことに挑戦してたかもしれないが、素人とプロの違いは歴然だ。

手から伝わって来た拍動は、とても穏やかなもので。

6年ぶりに抱きしめたりしてるのに、動揺して脈が乱れるなんてことがない。
俺は桃子に会えて、居酒屋で見たあの瞬間からずっと、心臓がバクバクしてんのに。

なんだよ。
俺だけかよ。
こんなにも会いたかったのは。

『ちゅーしていい?』
6年ぶりに口にした言葉。

クリスマス直前のイルミネーションをバックにしたシチュエーションなのに。
少し驚いて照れただけで。

言った俺の方が心臓が壊れそうなくらい暴れまくってるとはな。
すっげぇムカつくのに。

なんだろ。
負けず嫌いな性格が顔を覘かす。

10年以上も片想いしてたあの頃に戻ったみたいで。
悔しいのに。
また惚れさせてみせるという自信が、どこからともなく湧いてくる。

俺の一途な想いをなめんなよ。

初恋だけでなく、2度目も3度目も4度目でも。
何度だって好きになるし。
何度だって惚れさせてやるんだから。

「ホテルに戻んないとダメ?」
「へ?」
「ここに泊まってけばいいじゃん」
「っ……さすがに、それは…」
「6年間遠距離してる恋人同士なんだから、友達だって空気読んでくれると思うけど?」
「っっ」
< 155 / 165 >

この作品をシェア

pagetop