『オーバーキル』一軍男子に脅かされています
「もうどこにも行ったりしないよ」
「……っんなことは分かってるよ」
産婦人科を後にした私たちは、匠刀の車で私の実家へと向かっている。
匠刀をいっぱい傷つけて来た。
幼い頃から一途に想ってくれていたのに。
私は彼を捨てるみたいにして、彼のもとを去った。
離れている6年もの歳月の間も、ずっと想い続けてくれていた彼。
私はそんな彼を、未だに不安にさせてしまう。
「匠刀」
「……黙ってろっつっただろ」
「そうじゃなくて」
「……あ?」
「区役所に寄ってからにしようよ」
「ッ?!!」
「ね?その方が効率がいいし」
察しのいい匠刀だから、私が言いたいこと、分かるでしょ?
「よし!区役所寄って、桃子んち行って、兄貴んとこ戻って…」
「え?」
「桃子の気が変わんねーうちに、出しとかないと」
「は?」
「思い立ったら何とやらだよ」
そんなにも不安にさせてるの?
今日の今日に、婚姻届を出したいほど??
「あ、……たんま」
「へ?」
「親父より、書いて欲しい人がいる」
「……??」
匠刀が言う『書いて欲しい人』というのは、証人の欄の人のことなのは分かるけど。
一体誰だろう?
「区役所で貰ったら、桃子の家に行く前に医大に行くぞ」
「医大って、白星会?」
「おぅ。……親父より、財前教授にサインして貰いたい」
「あ…」
「確か今日は医局にいる日だったはず」
「何で知ってんの?」
「主治医なんだから、把握してんのは当たり前だろ」
「……」
いや、当たり前じゃないよ。
主治医なのは私のだよね?
私は主治医のスケジュールなんて知らないよ。
自分の受診日以外の出勤日だなんて……。