『オーバーキル』一軍男子に脅かされています

幼い頃から風邪を引くと半月ほど寝込んだりしていた桃子は、5歳の時に心筋炎にかかり、死のふちを何度も彷徨った。
幸いにも命は取り留めたが、心臓の一部が損傷したことにより、定期的な検査と薬物療法による治療が行われている。


親友の素子には『可憐なモモが羨ましい』だなんて言われるけど、桃子にしてみれば元気に外を駆け回れる方が羨ましい。

病気で休みがちな桃子にとって、他者との会話はとてつもなくハードルが高い。
ここ2~3年は心臓の具合も落ち着いていて、女友達ができるほど学校にも通えるようになったが…。
クラス委員の役割だと分かっていても、こんな風に至近距離で会話するのは怖い。


素子には5歳離れた兄がいて、その兄には軽度の知的障害がある。
いつも体育を見学している桃子が気になったようで、素子が声をかけたのがきっかけ。

ハンディキャップを負っていると心が塞ぎがちになるが、素子の明るさに桃子は何度も救われて来た。



「宮崎くん、もう帰っても大丈夫かな……?」
「うん、大丈夫だと思うよ」
「じゃあ、ごめん。私、先帰るね」
「ん、お疲れ」
「お疲れさまでした」

隣りのクラスの子と会話している宮崎に軽く会釈し、桃子は3年A組を後にした。

「急がないとっ…」

気持ちは焦るけれど、廊下を走ったりできない桃子。
校則で走ってはダメという理由からではない。
心拍数が上がると、心臓に負担がかかるから走れないのだ。

早歩きのような競歩のような足取りで、桃子は先を急いだ。

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