『オーバーキル』一軍男子に脅かされています

虎太くんの知らない一面を見れて嬉しいはずなのに、胸が苦しい。
やっぱり、来るんじゃなかった。

4年も想い続けた相手がこんなにも近くにいるのに、私ではない人を優しく見つめている。
私が勇気を出して告白してたら、その眼差しの先は、私になってたの?

今さら後悔しても遅いよね。
そもそも、私に告白する勇気なんて無かったんだもん。

虎太くんが雫さんのために頑張った逸話は聞いてる。
空手界のプリンスを射止めた女神として。

「あっ、モモちゃんのカップ空だね。私のも空だから一緒に淹れて来るよっ!イチゴオレでよかった?他のにする?」

スッと立ち上がった雫さんは、ドリンクバーのコーナーを指差し、席を離れようと移動し始めた。

「え、あの、大丈夫で……っ」
「桃子っ」

雫さんを追いかけようと立ち上がった瞬間、ぐらりと視界が大きく揺れた。

右心房の一部が損傷し不整脈を抱える桃子は、心房から心室へと運ぶポンプ作用に難がある。
急に立ち上がったり、疲労が蓄積やストレスで眩暈や立ち眩み、酷い時は脈が飛んだりする不整脈が起る。
血栓ができやすく、脳梗塞にもなりやすい病だ。

匠刀が体を支えてくれたお陰で、どこにも痛みはない。

「急に立ち上がるな」
「……ん」
「平気か?気持ち悪くないか?」

眩暈が治まるのを待って、ゆっくりと座り直した。

「兄貴、悪い。桃子を送ってくから、あとは二人でのんびりしてて」
「お、おぅ。……モモちゃん、大丈夫?」
「……はい、大丈夫です。ご心配おかけしてすみません。雫さんに宜しくお伝え下さい」
「ん」

息苦しい。
大丈夫とは言ったけど、ちょっと気持ち悪いかも。


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