『オーバーキル』一軍男子に脅かされています

「あら、匠刀くんじゃない」
「こんちわっ」
「学校は?」
「もう終わってる時間っすよ」
「あっ、……そうだったわね」
「匠刀、部活は?」
「水曜だから、監督いないし、兄貴に用があるって言って来た」
「えっ…」

毎週水曜日は空手部の監督が不在の日。
遠藤監督は、高齢者施設に入所してい母親の面会に行っているらしい。

「私たちお昼ご飯まだなんだけど、よかったら一緒にどう?」
「え、俺もっすか?」
「車で来てるし、送りながらどこかによって食べて行きましょうよ」
「もう少ししたら、夕飯の時間になりますけど」
「うちは8時過ぎまで患者さんいるし、元々そんなに早くないのよ」
「あぁ~。じゃあ、お言葉に甘えて」
「桃子、何食べたい?」
「うーん、ハンバーグ?」
「じゃあ、ファミレスにでも寄って帰りましょうか」

匠刀の家族と食事をしたことはある。
親が仲がいいというのもあって。

だけど、こんな風に匠刀を誘って食べに行ったことなんて一度もないのに。

先日の『デートに誘ったんで』発言が効いている。
母親の目が、すっかり『彼氏』だと思い込んでる。

車の後部座席に座った私は、すかさず匠刀に耳打ちする。
『変なこと、言わないでよね?』
「変なことって何?」
「ばかっ、シッ!」
「お母さんは前向いてて何も見えないからね~」

見えてんじゃん。
ルームミラー越しにウインクして来た。
ウフフフッと意味ありげな笑いをする母は、『どうぞ、ご自由に~』的な視線を送って寄こして来た。

そこは『高校生らしくね!』と釘刺そうよ。
相手はフェロモン垂れ流しのチャラ男 匠刀なんだから。

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