『オーバーキル』一軍男子に脅かされています

北棟と南棟が連結している中央部分の3階。
長廊下の窓を開けて、桃子は自身のスマホを取り出す。

「よかったぁ、……間に合った」

動画機能を立ち上げ、校庭の一角にいる集団にスマホを向ける。

「うわっ、今の何?……体操選手みたい」

校庭の隅にある鉄棒を空手部の部員たちが取り囲んでいる。

毎週水曜日は空手部の監督が休みなため、部活動はロードワークや基礎トレが主になっている。
天気のいい今日は『校庭で基礎トレをする』という情報を素子が仕入れて来たのだ。

桃子の視線の先には、鉄棒を蹴上がりした一人の男子高生が映る。

4年もの間、片想いしている人物だ。
津田(つだ) 虎太郎(こたろう) 高校3年、空手部の部長。

学年が二つ上ということもあってなかなか会えないけれど、たった一年でも同じ学校に通いたいと思い、白修館高校を受験した。

ピンチアウト(拡大)(2本の指の間を広げる操作)をして、画面に映る彼に見惚れていると。

「お前、すげぇな。盗撮してまで兄貴のストーカーかよ」
「ッ?!!」
「せんせーいっ、この人、盗撮してま~っん…」
「それ以上喋ったら、貸してるお金、今すぐ返して貰うよ?」

特別教室しかない廊下だし、放課後だから誰も来ないと思っていたのに。
まさかの人物登場に、さすがの桃子も焦る。

都内でも名門の白修館高校で『津田兄弟』と言えば、誰もが知るイケメン兄弟だ。
オリンピックメダリストを父に持ち、桃子が片想いしている兄の虎太郎は、今年開催されるオリンピックに出場も決まっているほど、空手界では『プリンス』と呼ばれている。

そして……。

< 3 / 165 >

この作品をシェア

pagetop