『オーバーキル』これ以上、甘やかさないで
「お前、あんなクソ甘ぇーの、よく食えんな」
「甘いからいいんじゃない」
カフェでパフェをご馳走になり、炎天下を避けるようにエキナカを歩いて回る。
「疲れたら言えよ」
「大丈夫だよ」
「だから、我慢すんなってことだよ」
「あーはいはい、分かったってば」
心臓に問題を抱えてるから、匠刀は心配性だ。
母親よりも口煩く聞いてくる。
だけど、こういう優しさは当たり前じゃないんだよね。
「何だよ」
隣りを歩く私がじーっと見てるからだと思う。
照れくさそうにあからさまに視線を逸らされた。
「私ね、虎太くんのことがずっと好きだったんだ」
「……知ってるよ。何、今さら」
「週に2回、うちの鍼灸院に来るのをすごく楽しみにしてたし」
「……」
「見る度にドキドキして、いっぱい盗み見してた」
「盗撮するくらいだもんな」
「私の初恋だったんだと思う」
「ばーか。それ、『好き』とは違うから」
人の初恋を全否定。
あんたに恋する乙女心の、何が分かるっていうの?
「桃子は、カッコいい兄貴にお姫様扱いされて、喜んでただけだよ」
「え?」
「恋って、我慢できるもんじゃねーもん」
「……」
「どんな理由こじつけたとしても傍にいたいし、男なら守りたいとか思うもんだし」
「……っ」
「俺がどんだけお前を見てるか、お前全然わかってねーよっ」
「っっ」
匠刀に言われて、初めて知った。
『恋』というものを。
私はただ見てるだけで幸せだった。
笑った顔や真剣な顔とか、色んな虎太くんを見るのが楽しみだっただけで。
匠刀に言われて気付く。
心を焦がすほど、虎太くんのために何かをしたいと思ったことは一度もない。