『オーバーキル』一軍男子に脅かされています
桃子が体調不良で学校を休みがちになっても、学校の授業についていけなくならないように。
桃子のためにノートを取って、桃子にいつでも教えられるように。
どんなに空手の稽古でクタクタになっても、予習復習を欠かしたことがない。
桃子のように塾に通う時間がないから、自己学習で学力を維持して来た。
空手を続けているのもそうだ。
体調不良で倒れた時に、すぐさま駆けつけたり運んだりできるように、筋力をつけるためだ。
さすがに小学校低学年の頃は抱え上げることもできなかった。
近くにいる大人に走って助けを呼びに行くことくらいしかできなくて。
すごく悔しい思いを何度もした。
今は軽々と運べるけれど。
運ばないで済むなら、それに越したことがない。
俺のこの血の滲むような努力の10年を、ぽっと出の見知らぬ男に掻っ攫われて堪るか。
あいつに話しかけていいのも。
隣りを歩いていいのも、俺だけだ。
10年かけてやっと手にした『彼氏』の座を、そうやすやすと明け渡したりしねぇ。
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「小川の彼女?」
「美人な彼女じゃん」
「あ、いえ、私は…」
「お前らうるせぇ、素通りしてけ」
「何だよっ、見せびらかして」
「ごめんね、同じ高校の奴らで」
「……そうなんですね」
「彼女さん、こいつ、意外と手が早いから気を付けて」
「ッ?!お前らっ」
こいつだな。
俺の桃子にちょっかい出そうとしてる奴は。
男友達がいう『意外と手が早い』というのは、ほぼ100%当たってる。
警告や揶揄いの意味合いで口にする言葉だが、男の嫉妬心を裏付けしてるようなものだ。
『こいつには喰われんなよ』的な意味合いで。
「話してるところ悪いけど、そいつの彼氏は俺なんで」