『オーバーキル』一軍男子に脅かされています
ココアとお月様
5月中旬のとある朝。
「桃子、本当に大丈夫なの?無理して行かなくても、休んでもいいんだからね?」
「大丈夫だよ。薬も飲んだし、痛みもだいぶ引いたから」
「お父さんが学校まで送って行こうか?」
「もうやめてよ、二人とも。ホントに大丈夫だからっ」
朝8時10分を回った。
玄関でローファー履き、振り返る。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
「気を付けてね」
いつもより20分ほど遅く、自宅を後にする。
桃子の足では遅刻するかもしれない。
自宅から駅まで、駅から学校までの道のりを全力疾走出来たら、十分に間に合う。
高校までの距離は、それほど遠くないから。
だけど、高校を受験する時に決めたことがある。
体調不良を理由に、親に助けを求めないということ。
心臓の調子が悪くなってやむなく休むことは絶対にある。
その時だけ親に頼ることにしたのだ。
今まで病気を理由に、ちょっと調子が悪いだけですぐに休んでいたけれど。
高校は義務教育じゃない。
休めばいずれ出席日数が足りなくて、進級できなくなる。
幾ら勉強を頑張っても、こればかりはどうすることもできないだろう。
けれど、その現実をちゃんと受け止めねばならないから。
いつまでも親が助けてくれるわけじゃない。
いつかは両親のもとから自立しなければならない。
遅刻したっていい。
1日でも多く、自力で学校に通いたい。
桃子の切なる願いだ。