『オーバーキル』一軍男子に脅かされています

サポーター席にカメラが向けられ、日の丸の旗を振っている匠刀のお父さんが映った。

「おばさんいないね」
「さっき俺と話したらか、たぶん会場の外に出たんじゃね?」
「そっか」
「兄貴の彼女、どこだろ」

テレビに張り付くようにする匠刀。
一応、自宅のテレビで録画してるみたいだけど。

雫さん、気が気じゃないだろうな。

「あっ、いた」
「どこ」
「一番上の席。すげぇデカいカメラ構えてる」
「ホントだ!」

プロカメラマンみたいな、物凄い望遠レンズのカメラを三脚にセッティングしてスタンバイしてる。

さすがだ。
自身でも何度も試合で優勝経験があるから、違うのかな。
私には絶対真似できないよ。

会場の熱気がテレビを通して伝わって来る。

いつもテレビでしか観たことないけど。
やっぱりどの競技でも、感動ものだよね。

「匠刀もオリンピックに出たい?」
「……いや、俺は別に」
「そうなの?」
「空手をすんのは、兄貴だけで十分だろ」
「そんなことないと思うけど」

虎太くんと同じように、匠刀もずっと空手を続けてるから。
いつかはオリンピックに出場するのを目標にしてるのかと思った。

父親がメダリストだから。
兄も同じ道を辿っているから。
何の疑いもせずにいたけれど、匠刀はこの先、どうするのだろう。


組手の試合は3分。
注意や警告が入る度に制限時間が停止するし、技が決まってポイントが入る度にも一時停止する。
だから、正確には3分より少し長くて。

知らない人の試合なのに、既に心臓がバクバクと大きく振動している。

< 52 / 165 >

この作品をシェア

pagetop